桜木みなとの演技の振れ幅に魅了される、宝塚歌劇「カルト・ワイン」('22年宙組・東京建物 Brillia HALL)

桜木みなと
桜木みなと

ミュージカル・プレイ「カルト・ワイン」は、貧しい若者が偽造ワインの詐欺師として成り上がり、転落していく波瀾万丈の物語である。「ルディ・クルニアワン事件」という実際の高級ワイン詐欺事件に着想を得ている。そう聞くと暗い話のようだが、粋で小洒落た味わいで、結末も痛快だ。何といっても主演の桜木みなとの魅力が最大限に引き出されている。作・演出は栗田優香が担当している。

物語は貧しい中米の国ホンジュラスで始まる。シエロ(桜木みなと)は、マラス(ギャング)の一員となることしか生きる術がなかった。だが、親友フリオ(瑠風 輝)の父を手にかけろとの命にどうしても従えなかったシエロは、フリオの一家と共にアメリカに渡って人生をやり直す決意をする。

不法入国者として辛酸を舐め、職を転々とする中で、シエロは自分が天才的な味覚を持っていることに気付く。オークション市場で高値取引される「カルト・ワイン」の偽造に手を染めたシエロはカミロと名を変え、「ワイン界の貴公子」として一世を風靡していくことになる。

シエロ(カミロ)を演じるのは宙組期待の男役スター、桜木みなとである。温かみのある芝居に定評があり、王道の二枚目役に加えて近年では「WEST SIDE STORY」の女役アニータや、「アナスタシア」 の軽妙な老紳士ヴラド・ポポフなど、幅広い役柄で安定した実力を発揮している。本作は「相続人の肖像」(2015年)、「パーシャルタイムトラベル」(2017年)、「壮麗帝」(2020年)に続く4度目の主演作となる。

桜木演じるシエロ(カミロ)は振れ幅の大きい役柄だが、その魅力は紆余曲折あっても人としてブレないところにある。カミロになってからのスーツ姿も決まっているが、貧しかったシエロ時代の姿にも不思議な愛嬌がある。

本作のシエロ(カミロ)は、桜木本来の持ち味「良い人オーラ」を芯に据えつつも、育った環境の過酷さゆえの自己肯定感の極端な低さ、そして天才的な味覚という悪魔のような才能を持ち合わせた人物だ。シエロ(カミロ)が本来持つ「良い人」な部分と、それを取り巻くダークな部分が激しくせめぎ合い、強烈なコントラストを発揮する。

瑠風輝演じるフリオも貧困に苦しむ青年だが、場末の食堂で生きていてもスタイリッシュな立ち姿に惹きつけられる。真面目にこつこつ努力を積み重ねて分相応の成功を手にしていく生き方が、カミロとは好対照だ。それでも揺るがぬ二人の絆が、バディ物としての本作の見どころである。

春乃さくら演じるアマンダは、清楚で控えめな佇まいがこれまでのタカラヅカ的ヒロインとは一味違って新鮮だ。その後の春乃は宙組のトップ娘役に就任したが、アマンダ役はこれからもっと色々な役を見てみたいと思わせてくれる役どころであった。

ニセモノに踊らされる人たちと、ニセモノでしたたかに稼ぐ人たち。そんな人間の愚かさや狡さをシニカルに描いているところも、この作品の面白さである。シエロを悪の道に引きずり込むキーパーソン・チャポ役で凄みを見せる留依蒔世、チャポの手下・ミゲルを演じる真白悠希のおとぼけ感が絶妙だ。
 
一連の物語の中で狂言回し的な役割を果たすのが、風色日向のオークショニアだ。欲望渦巻く人間界とは一線を画したところで罪のない輝きを放ちつつ、狂乱の世界を涼しげに眺めているようである。

観ると必ず一杯やりたくなる作品だ。ワイングラス片手の鑑賞もまた一興かもしれない。

文=中本千晶

この記事の全ての画像を見る

放送情報【スカパー】

「カルト・ワイン」('22年宙組・東京建物 Brillia HALL)≪特別放送版≫
放送日時:2月10日(土)23:00~ほか

放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE

※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物