月組トップスター・珠城りょうが新たな一面を見せた宝塚歌劇『赤と黒』

珠城りょう
珠城りょう

名古屋・御園座にて2020年2月に行われた月組公演『赤と黒』が5月のタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。原作はスタンダールの長編小説。2019年に亡くなった柴田侑宏の脚本で1975年月組で初演されて以来、1989年月組、2008年星組と再演を重ねてきた作品だ。

野心を胸に秘め、恋によって身を滅ぼしていく青年ジュリアンを演じるのは、次回の宝塚大劇場公演が卒業公演となる月組トップスター・珠城りょうだ。この役は珠城のイメージには合わないのでは?そう思った人も少なくなかったのではないだろうか。幕が上がるまでは私自身もそうだった。

だが、ジュリアン・ソレルという男性は田舎の材木商の家に生まれながらもナポレオンを崇拝し、出世を目指して努力を惜しまない。真面目で直情的な青年だ。意外と不器用だし、強情なようでいて素直なところもある。そんなところが、まさに珠城りょうであった。

また、2人の女性から愛されるという印象ばかりが強いジュリアンだが、決して手練手管の恋愛上手ではない。むしろ恋愛に関しては初心であり、おまけに真面目で直情的なのは恋に対しても同じだ。これまた珠城の持ち味にぴったりである。

結果としてこの作品でまたしても新たな珠城りょうの一面を見せつけられることになってしまったのである。

美園さくら(『赤と黒』より)

―原作 スタンダール―(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

1幕ではレナール夫人との燃えるような恋、2幕のマチルドとの冷めた恋の駆け引きと、対照的な恋模様が描かれるのがこの作品の見どころだ。

美園さくらが演じるレナール夫人は世間知らずの純朴な女性という佇まい。真面目で一途な珠城ジュリアンがのめり込んでいくのも納得だ。一方、2幕では、元・男役の天紫珠李が演じるマチルドとジュリアンは、似たもの同士の戦いのよう。どこまでも勘違いしたまま突っ走れる感じは今どきの女子っぽくて、古風なレナール夫人とは対照的だ。

月城かなと

―原作 スタンダール―(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

先日、珠城を引き継いて月組トップスターへ就任することが発表された月城かなとが対照的な2役を好演している。1幕では、どこまでもブレずにジュリアンを思いやる地元の友・フーケ、そして2幕では、パリで不器用なジュリアンの恋愛指南役となる、要領の塊のようなコラゾフである。

この他、1幕では町長のレナール氏(輝月ゆうま)と助役のヴァルノ(千海華蘭)による、田舎紳士同士の見栄っ張りバトルに苦笑させられる。レナール夫人の心の友・デルヴィール夫人(晴音アキ)の賢さ、恋敵となり夫人を陥れるメイドのエリザ(きよら羽龍)のしたたかさにも注目だ。

そして2幕ではコラゾフ公爵を筆頭としたノルベール伯爵(夢奈瑠音)、クロワズノワ侯爵(蓮つかさ)、ラ・ジュマート男爵(礼華はる)という男性陣。彼らと上流社会風の恋を楽しむサン・クレール夫人(夏月都)、フェルバック元帥夫人(結愛かれん)。うわべだけの華やかさの中で生きる貴族たちの会話が虚しい。

ジュリアンを巡る人々の丁寧な芝居の積み重ねによって、1幕では田舎町ヴェリエールの閉塞感、2幕ではパリの社交界の空虚さが浮き彫りにされていく。ジュリアン・ソレルの短い生涯は、こうしたものにあらがって燃え尽きた人生だったのだ。

名古屋での宝塚歌劇公演は2年ぶり。待望の公演だったはずが、新型コロナウイルスの影響により、この公演もまた最後の5日間が休演となってしまった。「芝居の月組」の面々がそれぞれの持ち場で本領発揮する名作を、この機会に改めてじっくり楽しみたい。

文=中本千晶

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放送情報

『赤と黒』('20年月組・御園座)
放送日時:2021年5月16日(日)21:00~ほか
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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