星組トップスター・礼真琴の新境地!ダーティーヒーローを演じた宝塚歌劇『エル・アルコン-鷹-』

礼真琴
礼真琴

青池保子の人気漫画を舞台化した『エル・アルコン-鷹-』は、宝塚では異色のダーティーヒーローが登場することで話題を集めた作品だ。

時は16世紀後半、「太陽の沈まぬ国」スペインの太陽が沈む直前の物語である。イギリスに生まれながらスペイン人の血を引くティリアン・パーシモンは、スペイン無敵艦隊で七つの海を制覇するという野望を胸に抱いていた。悪虐の限りを尽くしてイギリス海軍で名を挙げたティリアンはスペインに迎え入れられ、ついに憧れの無敵艦隊を率いてイギリスと戦う。

舞空瞳
舞空瞳

~青池保子原作「エル・アルコン-鷹-」「七つの海七つの空」より~ 原作:青池 保子(秋田書店)
©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

2007年の星組初演では、目的のためには手段を選ばぬ冷徹な主人公ティリアンを安蘭けいが演じて好評を博した。これを今回は星組トップスターの礼真琴が演じて、新境地を見せる。

2019年に星組トップスターに就任した礼は、歌良しダンス良しの逸材として早くから注目されてきた。2010年の『ロミオとジュリエット』初演では「愛」役に抜擢、しなやかで可憐なダンスで一躍脚光を浴びたが、本年には同じ『ロミオとジュリエット』で主役ロミオを演じ、その歌唱力で客席を圧倒した。現在は『柳生忍法帖』で剣術の達人・柳生十兵衛役として、その卓越した身体能力を発揮し、舞台上を所狭しと駆け回る。

そんな礼真琴が作り上げたティリアンは、どれほど野心を満たしても埋まらない孤独が切なく哀しい男だった。冷たさの奥底に血の通ったティリアンであった。

そのティリアンの好敵手となるのが、トップ娘役の舞空瞳が演じるフランスの女海賊ギルダだ。「可愛らしい」や「純粋無垢」ではなく「カッコいい」という形容がぴったりくる役どころである。ティリアンにとって女性は野望のための道具に過ぎないが、その彼が唯一リスペクトする女性でもある。そんな2人の関係は、共に歌、ダンス、芝居の三拍子そろった実力派トップコンビの姿に重なって見える。

愛月ひかる
愛月ひかる

~青池保子原作「エル・アルコン-鷹-」「七つの海七つの空」より~ 原作:青池 保子(秋田書店)
©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

父の仇を討つためにティリアンと対峙するルミナス・レッド・ベネディクト(キャプテン・レッド)を演じるのが、『柳生忍法帖』での退団が決まっている愛月ひかるだ。世間知らずなインテリ学生が海賊の世界に転じ、ティリアンと互角に戦えるまでに成長していく過程をさわやかに見せる。この作品は、「黒い役」が続いていた愛月が「白い役」での本領を発揮した貴重な一作でもある。

脚本・演出を担当した齋藤吉正は、原作のエピソードを並べ替えて密度濃くまとめて見せている。このため展開は早いが、原作の印象的なシーンも盛り沢山だ。寺嶋民哉の作曲による主題歌も耳に残る。

ティリアンの野望に振り回される悲劇のカップル、ペネロープ(有沙瞳)とエドウィン(天華えま)、幼いティリアンの憧れの存在であったジェラード・ペルー(綺城ひか理)。ティリアンが唯一心を許す少年ニコラス(咲城けい)。またレッドの側では、一味が振り回される天真爛漫な娘ジュリエット(桜庭舞)、レッドに惚れ込んで良き相棒となるキャプテン・ブラック(天飛華音)など、原作の個性的なキャラクターたちが続々と登場する。

そして大詰め、世界の海の覇権を賭けて争うスペインとイギリスの戦いへと繋がっていく。この作品で描かれるのは、時代が大きく動いていく中で散っていった、1人の男の「滅びの美学」でもある。

この公演も本当なら全国ツアーとして各地の劇場をまわる予定だったが、コロナ禍の影響で叶わず、短い期間で梅田芸術劇場での上演がようやく実現したもの。タカラヅカ・スカイ・ステージでの放送が心待ちにされた作品である。

文=中本千晶

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放送情報

『エル・アルコン-鷹-』 ('20年星組・梅田芸術劇場・千秋楽)
放送日時:2021年11月21日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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