不思議な魅力を醸し出す!月組・珠城りょうが1人2役に挑んだ『ピガール狂騒曲』

珠城りょう
珠城りょう

12月のタカラヅカ・スカイ・ステージに登場するミュージカル『ピガール狂騒曲』は、シェイクスピアの「十二夜」を題材にした物語だ。双子の兄妹が登場するこの作品は、宝塚でもこれまで何度か舞台化されてきた。だが、今回は「ベル・エポック」(輝かしき時代)といわれた20世紀初頭のパリに舞台を移して展開する変化球である。作・演出は原田諒が担当する。

母を失い孤児となったジャンヌ(珠城りょう)は腹違いの兄を探している。身を守るため男装しジャックと名乗り、仕事を得るためにミュージック・ホール「ムーラン・ルージュ」を訪ねる。

だが、その頃の「ムーラン・ルージュ」は閑古鳥が鳴いていた。支配人のシャルル(月城かなと)は起死回生を図るべく、人気作家ウィリーの妻であり、彼のベストセラー『クロディーヌ』のモデルとも目されるガブリエル(美園さくら)を舞台に引っ張り出そうと画策、その交渉役をジャックに任せた。

実はガブリエルは夫ウィリー(鳳月杏)のゴーストライターをさせられており『クロディーヌ』を書いたのも彼女だった。夫の身勝手な態度に愛想を尽かしたガブリエルはウィリーに離婚を要求、そんな折、出演交渉にやってきた見目麗しいジャックに一目惚れしてしまう...。

美園さくら(『ピガール狂騒曲』より)
美園さくら(『ピガール狂騒曲』より)

(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

「十二夜」でいうとジャンヌ(ジャック)がヴァイオラ(シザーリオ)、シャルルがオーシーノ公爵、ガブリエルがオリヴィアに当たるだろう。

加えて本作ではシェイクスピアの原作の上に女性の自立、そして舞台を創り上げる人々の情熱というテーマが重ねられ、今の観客も共感できる物語に仕上がっている。ちなみに、ガブリエルは作家ガブリエル・コレット、シャルルは「ムーラン・ルージュ」の創始者シャルル・ジドレールをモデルにしていると思われる。

見どころは何といっても、珠城りょうがジャンヌ(ジャック)と腹違いの兄ヴィクトールの2役を演じることだ。珠城といえばスケールの大きさや包容力が持ち味の男役であり、本年8月の退団公演『桜嵐記』でも戦いに散っていく楠木正行を演じて涙を誘った。いっぽう「十二夜」のヴァイオラ(シザーリオ)は女性であり、宝塚でいうと中性的なフェアリータイプの男役に似合いそうな役柄である。珠城がこの役をやると聞いたときには誰もが意外に感じたものだった。

ところが蓋を開けてみると、ジャンヌ(ジャック)役が醸し出す何とも不思議な魅力に注目が集まった。素顔の珠城の延長にも見えるジャンヌ(ジャック)の「健気なのに艶っぽい」姿から目が離せないのである。

知的で強気だが意外と可愛い部分もあるガブリエルは、トップ娘役・美園さくらにぴったりの役どころだった。アール・ヌーヴォー調のシンプルな衣装もよく似合う。

月城かなと
月城かなと

(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

また、珠城の後、月組の新トップスターとなった月城かなとが、シャルル役で新たな魅力を開花させているのも見逃せない。そこはかとなくユーモラスだが、一発逆転に賭ける男気もあり、どん底に陥ったときになお漏れ出てしまう色気も素敵な"イケオジ"である。

月組の芸達者、鳳月杏が、憎まれ役でありながら愛すべきダメ男でもあるウィリーを絶妙なバランス感覚で見せる。そして、風間柚乃演じる弁護士ボリスの八面六臂の大活躍はとにかく見てのお楽しみだ。

千海華蘭のロートレックが残されている写真さながらで、背景に映し出される絵画と合わせて見ると、あの時代にタイムスリップしたかのよう。コメディ要素も強いが、ドタバタ喜劇というよりはウィットと間でクスリと笑わせる。大団円の後には華やかなフィナーレもついており、幸せいっぱいな気分になれる作品である。

文=中本千晶

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放送情報

『ピガール狂騒曲』('21年月組・東京宝塚劇場・千秋楽)
放送日時:2021年12月12日(日)22:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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