福田雄一監督が自身の戯曲を映画化したコメディ映画『大洗にも星はふるなり』。今や福田組の常連となった山田孝之、ムロツヨシ、佐藤二朗らが共演し、賑やかなやり取りを繰り広げる本作は、その後の福田監督の快進撃を予感させるなんとも楽しい一作だが、男性陣の憧れのマドンナに扮した戸田恵梨香のキュートさにノックアウトされるという意味でも、改めて見直したい作品となっている。
クリスマス・イヴの大洗海岸が舞台の本作は、「勇者ヨシヒコ」シリーズが人気となり、『銀魂』(2017年)、『斉木楠雄のΨ難』(2017年)、『今日から俺は!!劇場版』(2020年)...と次々に大ヒット映画を手がけるなど、今や邦画界の売れっ子となった福田監督が、本作では自身の舞台を映画化し、映画監督デビューを飾っている。
浜辺に残された海の家に、夏の間にともに働いたマスターとバイトの店員という計5人の男性が集合。彼らはそれぞれ海の家のマドンナだった江里子(戸田)から、"イヴの夜に会いたい"と書かれた手紙を受け取り、やって来たのだった。我こそは彼女の本命だと口論を始める彼らだったが、そこに海の家の撤去を命じるために弁護士の男性が現われる。彼は誰が本命かを分析すべく、みんなの言い分を聞き始める。
男性キャラクターの誰もが、クセが強くて個性たっぷり。山田が演じたのはナルシストな杉本役。「まるで人魚みたいだよ」と女性にキザなセリフを吐く一方、どこか変態性の漂うロン毛の男に扮し、突然ハイテンションになる爆発力など、思わず「お見事!」と声を上げたくなるような怪演ぶりだ。
海の家のマスター役の佐藤は独り言なのか、ギャグなのか、アドリブなのか分からない芝居で、目一杯楽しませてくれる。ムロも恋人がいながらも「不倫のスリルを味わいたい!」と宣言する男をひょうひょうとした魅力で表現。その後「勇者ヨシヒコシリーズ」をはじめとする福田作品でも共演を重ねるなど、福田組の常連となった3人が息の合った掛け合いを披露している。彼らを客観的に分析する役割を担う、弁護士役の安田顕が醸し出す唯一無二の存在感も必見だ。
そんな濃すぎる男性陣の中でもまったく遜色ない、瑞々しい輝きを放っているのが、江里子役の戸田だ。男性たちの"妄想の中の江里子"を表現しているのだが、ある時はキャッキャと無邪気な笑顔で海岸を走り回り、ある時はうさ耳&フリルたっぷりの浴衣姿を披露。「デートしようよ」と誘う視線もかわいらしく、数々の男性を骨抜きにしてしまうマドンナを説得力とともに演じている。
近年は連続テレビ小説「スカーレット」(2019年)で陶芸家・喜美子の生き様を演じきり、ドラマ「俺の家の話」(2021年)でも男性たちを夢中にさせてしまうような魅力的な女性像を表現、凸凹交番女子ペアを描くドラマ「ハコヅメ 〜たたかう!交番女子〜」(2021年)でははつらつとした演技で視聴者を釘付けにして、コメディの才能も発揮していた戸田。30代に突入して、凛々しいオーラや女優力にもますます磨きがかかっている。『大洗にも星はふるなり』で、そんな戸田のキュートさをたっぷりと堪能してみてはいかがだろう。
文=成田おり枝
放送情報
大洗にも星はふるなり
放送日時:2021年12月25日(土)12:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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