月組の新トップコンビ、月城かなと海乃美月が挑んだ!新たに蘇った宝塚歌劇『ダル・レークの恋』

月城かなと
月城かなと

月組公演『ダル・レークの恋』が、タカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。

1959年に春日野八千代・故里明美のコンビで初演され、その後も幾度か再演されてきた名作に、現在、宝塚大劇場にてお披露目公演を行なっている月組の新トップコンビ、月城かなと&海乃美月が挑んだ。谷貴矢による演出が、菊田一夫の世界観を新感覚で蘇らせた。

物語はインド北部の避暑地であるダル湖のほとりに始まる。ベナレス領主の娘カマラ(海乃美月)は騎兵大尉ラッチマン(月城かなと)と一夏の恋に落ちる。だが、貴族の体面ばかりを重んじる一族から氏素性のわからない男との恋に強く反対され、カマラは心ならずもラッチマンに愛想尽かしをする。さらに、前科12犯の世界的詐欺師ラジエンドラがインドに入国したらしいとの報が入り、ラッチマンに嫌疑がかかる。

「私がそのラジエンドラです」と言い放ったラッチマンは「カマラと恋仲であったことを口外しない」代償として、一夜を所望する。不名誉な噂が広がることを恐れた一族はこれを受け入れ、カマラの背中を押すのだった。はからずもこの一夜はカマラにとっても忘れられぬものとなる。

その後、ラッチマンの働きにより本物のラジエンドラは捕えられ、ラッチマン自身も本当は高貴な身分であることが明かされる。すべての問題が解決したかと思いきや、ラッチマンはカマラに対して思わぬ一言を告げる...。

この、一筋縄ではいかぬ主人公ラッチマンを演じるのが、月組の新トップスターの月城かなとである。宝塚らしい端正な美貌に恵まれながらも、良い意味で宝塚らしからぬ、人間味あふれるお芝居をするところが魅力のスターである。これまでの主演作でも、『銀二貫』の松吉、『THE LAST PARTY~S.Fitzgerald's last day~』のスコット・フィッツジェラルド、そして『川霧の橋』の幸次郎などで、その芝居心を発揮してきた。
 
ラッチマンも然りで、ポスター画像の美しさだけでファンに溜息をつかせながらも、菊田一夫が生み出した男の純情の化身ともいうべき役どころを見事に体現してみせる。

海乃美月
海乃美月

作/菊田一夫©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

海乃美月が演じるカマラも難役だが、単なるプライドの高い箱入り娘ではない、未来の女官長を約束されている責任感と誇りを感じさせる、いまの時代にも共感しやすいヒロイン像を作り上げた。宝塚史上に残る名ラブシーンとして知られるラッチマンとの一夜の場面は、息を飲む美しさである。

この作品は東京公演と大阪公演での役替わりがあったが、今回放送されるのは、2人を翻弄する大悪党ぺぺルを風間柚乃が、カマラの兄でベナレスを治めるクリスナを夢奈瑠音が演じる大阪公演バージョンだ。

東京公演で暁千星が見せたぺぺルがやんちゃで自由気ままな遊び人であったのに対し、風間ペペルは色気の中に裏社会を生きる男の凄みが感じられた。夢奈クリスナは優しくおっとりとした良き兄、良き夫としての顔が垣間見える。

新演出の工夫の1つは、要所要所に登場する「水の精」だ。それは、すれ違ってばかりのラッチマンとカマラの、心の奥底の本当の思いのようだ。

意外な結末は、安易なハッピーエンド主義に対する痛烈な皮肉にも感じられる。だが、その後に宝塚らしい華やかなフィナーレがついているのは嬉しい。とりわけ、若手メンバーが中心となって踊る場面は、おそらく画面からでも溢れるエネルギーが伝わってくるはずだ。

甘い夢とほろ苦いリアルが絶妙なバランスでブレンドされているこの作品は、今なお示唆に富んでいる。「まことの愛」とは何なのか?見終わった後に考えさせられるのも、また一興だ。

文=中本千晶

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放送情報

『ダル・レークの恋』 ('21年月組・シアター・ドラマシティ・千秋楽)
放送日時:2022年1月1日(土)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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