強さとはかなさが同居した演技に魅かれる...深津絵里が女刑事を熱演した大人気シリーズ

現在放送中の「カムカムエヴリバディ」で上白石萌音、川栄李奈とともに、NHK連続テレビ小説初のトリプルヒロインを務めていることが話題の女優・深津絵里。NHKのプロデューサーたっての希望で主演オファーを受けたという彼女は、母親に対して複雑な感情を抱いていた10代の少女時代から、やがて自分が守るべき家族を得て、そのわだかまりが少しずつ解けていくさまを、繊細かつ確かな演技力で演じわけ、お茶の間を魅了している。

そんな彼女の映画デビューは1988年。水原里絵名義で出演した金子修介監督の『1999年の夏休み』だ。萩尾望都のコミック「トーマの心臓」を翻案した同作で、人里離れた寄宿舎に住む"少年"を演じた深津は、純粋さと危うさが同居する、神秘的かつ耽美的な世界の少年像を体現。映画ファンの間で鮮烈な印象を残した。そして時期を近くして出演したJR東海のCM「クリスマス・エクスプレス」で一躍注目の存在となった。

その後、1995年の「最高の片想い WHITE LOVE STORY」で連ドラ初主演を果たすなど、順調にキャリアを積み重ねてきた彼女が、オファーを受けた時に「こんな役を待っていた！」と語っていた当たり役が、「踊る大捜査線」シリーズの恩田すみれである。この人気シリーズのスピンオフを含む劇場版全6作品が3月に日本映画専門チャンネルで一挙放送される。

深津演じる恩田すみれは、警視庁湾岸警察署に配属された主人公・青島俊作(織田裕二)の同僚の刑事。正義感にあふれ、男社会である警察組織で生き抜く芯の強さを持ちながらも、過去にストーカー被害を受けて傷を負い、背後に立たれることに恐怖心を覚えたり、銃で撃たれ命の危険にさらされたりと、強さだけではない、はかなさも同居したキャラクターだった。過去に幾度となくつらい思いをしたゆえに、しばしばすみれは刑事を辞めるべきか...という決断に揺れ動く。

だが青島をはじめとした仲間たちの支えによって、刑事という仕事にしっかりと向き合い、ともに捜査を行ってきた。だが完結編となる「FINAL」では、心身ともに満身創痍となり...。15年続いたシリーズは、主人公の青島だけでなく、すみれの成長物語としても見ることができる。

シリーズ初期の頃、本シリーズのシナリオ本(キネマ旬報社刊)でのインタビューで深津は、本シリーズにおける顔のアップの多さを指摘し、「だからこそ微妙な心の動きが出しやすい」と語っていた。本広克行監督も「深津ちゃんのアップの表情はどれもいい」と振り返っていたが、だからこそすみれの一挙手一投足に感情移入してしまう。しかしそれはすみれだけでなく、室井慎次、和久平八郎、真下正義、柏木雪乃らをはじめとした数多くの個性豊かなキャラクターたちもそう。群像劇として、多くの魅力的なキャラクターが「踊る大捜査線」の世界を彩ってきた。

劇場版第1作の公開初日、メイン館となる日劇が入っていた有楽町マリオンの周囲には、2500人の徹夜組を含む3200人にもおよぶ長蛇の列がビルの周囲を取り囲んでいた。その行列に驚いたサラリーマンが、マリオン近くの交番で「これは何の行列ですか？」と尋ねたところ、「(青島たちが所属する)湾岸署の皆さんですよ」という返事があった、という逸話がある。警察内にも「踊る」ファンは多く、深津も別の作品のロケ中に、警察官から「すみれさん頑張って！」と声をかけられたことがあったという。

それほどまでに熱狂的なファンに愛された「踊る大捜査線」シリーズ。今、あらためてその魅力を再発見してみたい。

文＝壬生智裕

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