『ハラがコレなんで』で仲里依紗が演じた猪突猛進型のヒロインが、人と人の絆を問い直す

『舟を編む』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』などで知られる石井裕也監督が、仲里依紗を主演に迎え作り上げたオリジナルのコメディ映画『ハラがコレなんで』。劇場公開は2011年11月で、東日本大震災の年に上映された人と人の絆を描く作品としても記憶に残る一風、変わった作品だ。

『ハラがコレなんで』で主演を務めた仲里依紗
『ハラがコレなんで』で主演を務めた仲里依紗

(C)2011「ハラがコレなんで」製作委員会

主人公の光子(仲)は24歳、独身。底抜けのお人よしで、アメリカ人男性を助けているうちに彼の子を妊娠してしまい、一人で産むはめになる。両親にはアメリカに滞在していると嘘をつき、子どもの頃に暮らしていた古い長屋に転がり込む。そこには年老いて病に伏せている大家のおばちゃんこと清(稲川実代子)、幼馴染の陽一(中村蒼)らがまだ住んでいて、光子は彼らにおせっかいを焼き、長屋の暮らしに溶け込んでいく。

光子は相当な変わり者で、とにかく他人の言うことを聞かない。妊娠9ヶ月を迎え、大きなおなかをして、息をふーふーと吐きながら歩いている光子を、彼女に片思いをしていた陽一も始め、周囲のみんなは助けようとするのだが「オーケー。あたしが助ける」と、頼まれてもいないのに、かえって面倒事を引き受けてしまう。陽一と叔父の次郎(石橋凌)が切り盛りする食堂が経営不振なのを知って、光子は救済すると言い出し、客を集めてきたのはいいのだが、客の懐具合がさびしいのを聞いて同情し、「全員おごりで!」と言ってしまうので、結局もうからない。

(C)2011「ハラがコレなんで」製作委員会

東京大空襲でも焼け残り、当時のままの姿で残る長屋は困窮者の駆け込み寺のような場所。戦争で夫を亡くした後、そこを売り払わずに続けてきた清は「人情なんて絶滅したんだ。粋なんて、もうこの日本には残ってないんだ、悲しいけどね」と嘆く。そんな現代で「人情」と「粋」を貫こうとする光子は、果たして報われるのだろうか。

光子を演じる仲は、劇場公開当時、22歳。リブート版の実写映画『時をかける少女』(2010年)などで注目を集めていた。演技の思い切りの良さ、セリフ回しの明確さ、整った顔立ちなのに庶民的な女性も演じられる存在感など、彼女の才能が発揮されている。この後、『時をかける少女』で共演した中尾明慶と結婚し、私生活で出産することになるのだが、撮影当時は未経験だったにも関わらず、陣痛が起きたときの演技も実にリアルでうまい。

この映画が公開されてから11年、地震が頻発したり海の向こうで戦争が起こったりする現在だからこそ、思い立ったらすぐ人のために行動する光子の生き方が胸に響くはずだ。

文=小田慶子

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放送情報

ハラがコレなんで
放送日時:2022年4月13日(水)23:15~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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