三浦春馬が出演した最後の公開作が映画『太陽の子』だ。本作は2020年にNHKで放送された「太陽の子」を、ドラマ版とは異なるアプローチで描いた劇場版。三浦は京都帝国大学・物理学研究室の若き科学者・修(柳楽優弥)の弟で、戦地に向かった裕之を演じている。監督と脚本を手がけたのは「青天を衝け」などで知られる黒崎博。太平洋戦争末期に存在した「F研究」と呼ばれる"日本の原爆開発"を背景に、戦争に翻弄され、それでも前を向いて生きていこうとする若者3人の心の揺れを描いた青春群像劇だ。まぶしい笑顔で周りを明るく照らす裕之は太陽のような存在。とはいえ、戦地で壮絶な経験をした青年が心に傷を負っていないわけがない。そんな裕之の心の裏側も含め、ほとばしるようなエネルギーで表現した三浦春馬は、今もなおスクリーンの中で輝き続けている。
■研究に没頭する内向的な兄とは対照的な次男坊
「今、研究しているものが完成すれば戦争は終わる」と日本の原子物理学の第一人者である教授(國村隼)のもとで"実験バカ"と仲間に言われながら原子力爆弾の開発に情熱を燃やしている兄・修。空襲被害を避けるための"建物疎開"で家を取り壊され、修の家に居候することになる幼なじみの世津(有村架純)。
1945年の初夏に裕之が肺を壊し、戦地から戻ってきたことで3人は再会を果たす。久しぶりの我が家で日本酒を飲み、手料理を食べ、「うまい!」と無邪気な笑顔を見せる裕之は、家族を思うしっかり者の明るい青年だ。修は、そんな弟に心のどこかでコンプレックスを抱いている。
兄弟が砂浜で語りあい、「今は個人の感情どうこう言ってる場合じゃない。母さんを頼みます」と戦地に戻ることを告げるシーンや、酒を酌み交わし、「世津を幸せにしてやってくれ」と頼むシーンも決して重苦しくはなく、まっすぐでカラッとした性格を思わせる。
■抑えきれない感情と、心の葛藤を表現した三浦の演技が光る
そんな裕之が戦争のトラウマで内側に抱えていたものが爆発するのが、修と世津の前から姿を消し、夜明け前の海で自殺を図る場面だ。追いかけてきた修に助け出され、砂浜で怖いと子供のように泣きじゃくる裕之。3人で涙しながら抱き合う映像が胸に刺さってくる。
再び戦地に向かう前に母(田中裕子)の深い愛情に触れ、動揺する表情を見せるものの、次の瞬間にはキリッとした表情になり、敬礼をして「行ってまいります!」と背中を向ける三浦の演技からも切なさがこぼれる。科学者として自分たちのやろうとしていたことに打ちひしがれながらも人生を賭けていく兄の修、戦争が終わったら教師になりたいと未来を見据えている世津。平和な日常が奪われる中、もがきながらも生きる3人の姿が尊く、今の時代と重ね合わせても考えさせられる映画だ。
文=山本弘子
放送情報
映画 太陽の子
放送日時:2022年5月1日(日)21:00~、2022年5月12日(木)15:15~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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