2021年は坂口健太郎が再ブレイクした年だった。連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合ほか)でヒロインと結ばれる医師・菅波を演じ、心優しいがちょっと"俺さま"で服装がダサいというキャラクターで人気に。Twitterには「俺たちの菅波」というハッシュタグができたほどだった。やはり塩顔男子だけに塩対応の役がハマるのか。その朝ドラが終わる頃、放送スタートしたのが『婚姻届に判を捺しただけですが』。菅波に通じるようなツンデレぶりを続けて見せ、女性ファンを大いに沸かせた。
同名の女性向けコミックを実写化したこのドラマ。デザイナーの仕事に奮闘し独身生活を謳歌していた27歳の大加戸明葉(清野菜名)が、広告代理店に勤める30歳のサラリーマン・百瀬柊(坂口)に出会ったその日にプロポーズされる。実はそれは偽装結婚の提案で、百瀬には相手は誰でもいいから既婚者になっておきたいという事情があった。一方、明葉には結婚願望はなく、「ありえない! バカにしてるんですか」と百瀬に反発するが、彼に500万円という大金を借りる必要が出てきてしまい、結局、婚姻届を出すことと同居を承諾する。
坂口が演じる百瀬は、仕事はできるしイケメンだが、ちょっと変わっていて私生活ではコミュ障気味。明葉に対しては上から目線で「あなたを選んだ僕が馬鹿でした」「言われたことしかできないのは子ども」などと、遠慮なくきつい言葉を浴びせる。それでも明葉が彼を決定的に嫌いになれないのは、百瀬には自分が間違っていたと気づけばきちんと謝る素直さがあるから。弁当屋を営む温かい家庭で育ち、苦しい恋心を抱えて生きてきた彼を、明葉はいつしか本気で好きになっていく。
百瀬も、明葉の率直な言動に振り回されると同時に、しだいに心を開いていく。偽装結婚という状況から本物の恋人になれるのか?ヒット作『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)にも通じる展開だが、それにしても百瀬は鈍すぎる。本当に彼を好きになってしまった明葉の気持ちも理解できないし、「好き」とは言うもののその真意がラブ(恋愛)かライク(友情)かもはっきりしないので、2人は徹底的にすれ違う。現実ではありえないようなデリカシーのなさだが、坂口はそんなツッコミどころ満載の役を巧みな演技でリアルな人間として体現している。一見、鈍感なだけのようでいて、実は明葉のことを深く思いやっていると分かる表情が絶妙だ。
坂口は、本作のような胸キュンのラブストーリーも、『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系)のような硬派なサスペンスも、その両方を演じられるのが強み。しかし、作品によって役を演じ分け、まるで別人のようになるタイプではなく、少しずつチューニングを変えて自分のバリエーションを見せるタイプだ。ドラマの新作『競争の番人』(7/11月スタート、フジテレビ系)では、またしてもツンデレキャラである東大卒のエリート官僚を演じる。ただ、30歳になった節目に出演した本作のようにベタなラブコメモードはもう見られないかもしれない。その意味でも貴重な作品になっている。
文=小田慶子
放送情報
婚姻届に判を捺しただけですが
放送日時:2022年7月9日(土)7:00~
チャンネル:TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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