磯村勇斗の演技の幅の広さの礎となる"感情の持久力"の高さから目が離せない

映画、ドラマ、舞台などでさまざまな役を演じ、主演から助演まで何でもこなす若手実力派俳優・磯村勇斗。品行方正な若者を演じたかと思えば、クセの強い強烈なキャラクターにも扮(ふん)し、演技における幅の広さは折り紙付きだ。その幅の広さの基盤となっているのが、彼の"感情の持久力"の高さだろう。それが垣間見える、インスタ生配信短編映画「コロッケを泣きながら」(2020年)が8月12日(金)22:10より日本映画専門チャンネルでTV初放送される。

同作品は新鋭映画監督・近藤啓介と磯村がタッグを組んだ新しいインスタライブムービーで、実際のインスタライブからフィクションの世界に観客を誘導するという新しい試みとして、全編リモート撮影で制作されたもの。放送事故を装ったサプライズ演出は、当時SNSで話題となった。
磯村初の顔出しインスタライブが開始され、磯村がファンからのコメントに答えていく。しばらく交流した後、終了ボタンを押したはずが画面は終了せず、磯村の生活の様子が流れてしまうという内容で、コメント欄はファンの「切れてないよ!」「誰か教えてあげて!」というコメントで溢れる。その後、電話で話し始めた磯村は「お母さんコロッケ送ってくれた?」「送ってくれるって言ったじゃん!」「コロッケが食べたいの!」と怒り出す、というストーリーの14分間の超短編映画だ。

この作品は、コロナ禍で外出自粛期間中に制作者と役者が「エンタメの火を消さないように、こんな状況でも何かできることを」という思いから生まれたのだが、「インスタライブ」と「放送事故」というキーワードを上手く活用し、視聴者へのサプライズという遊び心も含めた"新しいエンターテインメントへの挑戦"という素晴らしいものになっている。「放送事故」という状況もそうだが、事前に知らせず内緒で視聴者を巻き込んでいるところに"新たなるエンタメの萌芽"を感じざるを得ない。

インスタライブを切り忘れたまま母親と電話し始めるという演出をする磯村勇斗
インスタライブを切り忘れたまま母親と電話し始めるという演出をする磯村勇斗

そんな中で、磯村の演技に注目すると、彼の比類ない演技力に驚かされる。インスタライブ終了後、母親に電話をかけて手作りのコロッケを送ってくれていないことに怒り出すのだが、本人の真剣さが際立つほどに"母親への甘えからくる我がままさ"や"手作りコロッケに対する執着心"などが浮き彫りになって、可笑しみを醸し出している。本人役ということで自然さを損なわないよう演じながらも、特徴的なキャラクター性を粒立てて演じるバランス感覚は見事。

さらに驚くべきは"感情の持久力"の高さだ。14分中、10分強怒り続けているのだが、"10分間怒りの感情を持続させる"のがどれだけ難しいかは想像に難くなく、その10分間に"息切れ"がないのだ。自身の中で多少の抑揚を入れて持続させつつ気持ちをつなぐという、演技の中でもかなりハードなことをやってのけており、そもそも"10分間怒り続ける"というシチュエーションが稀有なのだから、彼の中でもかなりチャレンジングだったのではないだろうか。そんなハードモードの芝居もこなせるからこそ、あの演技の幅の広さが生まれているに違いない。

エンターテインメントとしての新しい試みの中で見せる磯村のチャレンジングな芝居を堪能し、演技の幅の広さの土台となっている"感情の持久力"の高さを感じてみてほしい。

文=原田健

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放送情報

コロッケを泣きながら
2022年8月12日(金)22:10~、2022年8月17日(水)8:45~ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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