大正ロマンを代表する画家・竹久夢二。彼の美人画は着こなしから化粧や髪型まで、おしゃれで時代を先取りしており、当時の女性たちを夢中にさせた。現代でいえば、まさにファッションリーダーの役割を夢二が描く美人画が果たしていたのである。
そんな夢二が描いた数々の美人画と恋愛の軌跡を女優の吉岡里帆がたどるドキュメンタリー作品が「恋する、夢二~吉岡里帆がたどる 竹久夢二、美人画の源流~」だ。独特な美意識をもち、数多くの美人画を残した夢二。その抒情的な作品は「夢二式美人」と呼ばれた。じつは、夢二の創作の源は恋愛だったともいわれる。恋愛遍歴についても多くの評伝があり、自身の日記や手紙などで語られる愛の言葉は、後世の多くの創作の題材となった。特に以下の3人の女性が知られている。
絵はがき店を営む未亡人・たまき。画家を志す女学生・彦乃、若き職業モデル・お葉。彼女たちとの恋が魅力的な作品を生み出していったとされている。
夢二は彼女たちとどんな恋愛をしたのか...。そして恋から生まれた作品がなぜ多くの女性たちの心をとらえたのだろうか...。
吉岡里帆は、純粋なヒロインを演じた2017年放送のTBS系ドラマ「ごめん、愛してる」や2019年の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』など、恋愛を軸とする作品での活躍も目立つ。そんな彼女が、夢二の作品の魅力と彼の恋愛に迫る本作は、夢二の生涯を美しい映像と共にたどりながら見せてくれる見どころたっぷりのドキュメンタリーだ。
夢二が生まれ育った岡山をはじめ、数々の傑作を生み出した東京・京都、たまきの故郷である金沢、芸術の理想郷を構想した群馬県の伊香保と榛名湖...。どの地も夢二の作品世界に大きな影響を与えたことが示され、しばしば挿入される夢二の作品に惹かれるせいか、思わず旅情をかき立てられてしまうはずだ。
番組ではただ風景を映すだけでなく、金沢の街では、レトロな柄の着物を着た若い女性にインタビューし、現代女性の着こなしの源流が夢二の美人画にあることを突き止めていくなど、重層的な構成になっている。そんな丁寧な取材によって、具体性と説得力のある映像に仕上がっている点にも注目だ。ちなみに、吉岡の着物姿も見られるが、その着こなしも魅力的でかわいらしい。京都出身で、幼少期から歌舞伎や能、日本舞踊といった芸術文化に親しんで育ったという彼女だけに、日本文化との親和性が高いのだろう。
番組で紹介されている3人の女性との逸話はどれも興味深いが、特に夢二の美人画の原点になったという女性・たまきとの出会いが印象深い。年上の未亡人で、夫と死別後に早稲田鶴巻町で絵はがき店を営んでいたが、そこに夢二が客として通いつめた挙句、結婚に至ったという。いったん離婚するも再びよりを戻して同棲と別居を繰り返したという。夢二は彼女の大きな瞳に魅せられて、瞳の大きな女性を描くようになったことが紹介される。たまきの写真と当時の夢二の作品を見比べると、その影響が一目瞭然だ。ちなみに、夢二がその生涯で唯一法的に結婚した女性がたまきだった。
後に恋に落ち、夢二の大ファンだった女学生の彦乃は、深く愛し合っていながら病気で早世してしまう。最後に出会ったモデルのお葉のはかなげな美しさも魅力的だ。
恋に生きて、恋を描いた竹久夢二の生涯を女性たちとの逸話を交えて紹介する本作は、普段美術にまったく興味のない人にも楽しめる良質なドキュメンタリーに仕上がっている。吉岡も前に出過ぎることなく、終始上品に夢二の魅力を伝えてくれるので、好感が持てる。近年、演技力に磨きがかかり、女優として飛躍した感がある彼女だが、リポーター的な仕事にも適性があると思わせてくれた。
見どころ満載の「恋する、夢二~吉岡里帆がたどる 竹久夢二、美人画の源流~」が、9月10日(土)4:00~より時代劇専門チャンネルで放送される。夢二ゆかりの地をたどる吉岡里帆の目を通して、あなたも竹下夢二の世界に浸ってみてはいかがだろう。
文=渡辺敏樹
放送情報
恋する、夢二~吉岡里帆がたどる 竹久夢二、美人画の源流~
放送日時:2022年9月10日(土)04:00~、ほか
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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