そんなタツヒコを、綾野は実にナチュラルに演じている。もちろんコミカルな部分はコメディー要素満載に、バイオレンスな部分は持ち前の運動神経の良さを存分に振るったアクションで魅了し、感情を揺さぶるシーンでは情感たっぷりの芝居で魅了してくれるのだが、どんな時も"真っ当"で居続けてくれるため感情移入しやすく、手を引かれるように自然と観る者の感情を誘導してくれる。それはまさに原作の2Dの主人公がリアルに3Dで現れたかのように錯覚してしまうほどに綾野がタツヒコを"憑依"させて演じているからこそ、言葉に、所作に、目線に、表情に、雰囲気に、魂が入っているからに違いない。
さらに、物語では、何もできない新人時代から少しずつ仕事を覚え、さまざまな人々との関わりの中で成長していくのだが、彼の芝居そのものが周りのキャストの芝居を際立たせる効果をもたらしている。というのも、訳ありの女性や腹に一物を抱えている男たちといった濃いキャラクターが周りを固めているため、タツヒコも十分濃いキャラクターであるにも関わらず、相対する人物たちのキャラを邪魔しない"受け"としての立ち位置がデフォルトで、彼がナチュラルに演じているからこそ、相手の芝居が生む"キャラクターの濃さ"とのコントラストが強まるからだ。これは、特にタツヒコがホームタウンである歌舞伎町から横浜に舞台を変えて、アウェイの地で奮闘する姿を描いたシリーズ第2弾の映画「新宿スワンII」で顕著に表れている。
原作ものの主人公を演じることでより堪能できる綾野の"憑依"した芝居と、その芝居が作品にもたらす効果を感じながら、稀有な役者の底知れない実力を見届けてほしい。
文=原田健
放送情報
新宿スワン
放送日時:2022年10月10日(月)0:00~
新宿スワンII
放送日時:2022年10月10日(月)2:20~
チャンネル:WOWOWプライム
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