俳優・郷ひろみの実力を再認識できる時代劇映画「鑓の権三」

2021年に芸能生活50周年を迎え、それを記念した全国ツアーを実施するなど精力的に活動する郷ひろみ。アイドルとしてデビューし、後には実力派のシンガーとしてもその実力を認められて第一線で活躍を続けており、音楽活動のイメージが強いものの、俳優としての評価も高い。1972年のNHK大河ドラマ「新・平家物語」で俳優デビューし、1979年の大河ドラマ「草燃える」では、源頼家を演じている。今期の「鎌倉殿の13人」では金子大地が同役を演じて話題になったが、昭和世代には今でも郷ひろみが演じた頼家の印象が強いはずだ。それほど郷の演技には確かなインパクトがあった。

そんな俳優・郷ひろみの評価を大いに高めた作品がある。1986年に公開された映画「鑓の権三」だ。近松門左衛門の浄瑠璃『鑓の権三重帷子』を原作として、篠田正浩が監督を務めた。郷は主人公・笹野権三を演じている。

(C)1986/2022 表現社/松竹株式会社

時は元禄時代。松江藩士・浅香市之進(津村隆)の妻おさゐ(岩下志麻)は、娘の結婚相手に笹野権三(郷)を強く望んでいた。権三は槍の名人で、類まれな美貌の持ち主。小姓の身分ではあったが、権三は頭脳も明晰で茶道も嗜む教養人だった。しかし彼は、同家中の川側伴之丞(火野正平)の妹お雪(田中美佐子)という許嫁がいた。祝言を迫るお雪に対し、権三は性急に一家を構える情熱はなかった。

そんな折、藩主に世継ぎが誕生したことをきっかけに、権三に出世のチャンスが訪れる。そのためには茶道の師である市之進に茶の湯の極意を伝授される必要があった。そこでおさゐに懇願することにしたのだが、権三の運命は思わぬ方向に大きく揺れ動くことになっていく...。

本作は、権三を婿に迎えたいと願うおさゐが彼に対する複雑な感情を抱いているところがキモになっている。権三の美貌に魅了され、女の本能に目覚めてしまうおさゐは、お雪に強烈な嫉妬心を抱く。その気持ちが爆発してしまい、権三の人生までも狂わせることになるのだが、篠田監督の妻でもある岩下の演技は見事であり、あまりの艶やかさに画面にくぎ付けになってしまう。まさに大女優の監督十分。彼女を狂わせるだけの権三の危険なまでの存在感を醸す、郷の美しさにも説得力がある。抑制された硬質で静かな演技だからこそ、運命に翻弄される権三の悲劇性が高まっているともいえるだろう。

本作は第36回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に参加し、優れた芸術的貢献により銀熊賞を獲得している。近松作品らしい格調に満ちた美しい画面は、公開時にも高く評価された。共演には、篠田作品にはお馴染みの加藤治子や大滝秀治をはじめ、河原崎長一郎、竹中直人、浜村淳、小沢昭一らが顔をそろえている。

郷ひろみの時代劇作品は決して多くないのだが、顔立ちの美しさは言うに及ばず、運動能力の高さに裏打ちされた見事な所作など、本作においても時代劇への親和性の高さをうかがわせた。音楽活動と並行して、今後も俳優としての彼にも期待したい。本作は特に時代劇での彼の演技をもっと見たいと思わせる作品だ。そんな「俳優・郷ひろみ」のポテンシャルを再確認する意味でも、令和の若い世代にも大いに見てほしい一作である。

文=渡辺敏樹

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放送情報

鑓の権三
放送日時:2022年10月3日(月)4:00~、10月19日(水)13:00~
チャンネル:WOWOW4K、WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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