ハナは少年期の小野寺がひと目で心を奪われるような役どころであるため、登場シーンに艶やかさが必要不可欠なのだが、画角に映り込んだ田中は思わず息をのむほどの魅力に溢れ、その画力は一瞬で観る者を小野寺少年の心情に共感させてしまうほどのインパクトがある。「山道の中、カラフルな着物が少し着崩れし、白粉で白く輝く肌が煽情的で、どこか異様な雰囲気が漂う"景色"に、14歳の少年は抗う術もなく飲み込まれた」というメッセージが、登場した瞬間に表現できているのだ。色気だけでなく可愛らしさもある、いわゆる"小悪魔"的ではあるのだが、気位の高さみたいなものも感じられ、一筋縄ではいかない雰囲気もある、という筆舌に尽くし難い存在感で、『芝居というものはセリフの言い回しや所作、表情、佇まいだけではない』ということを強く訴えられたような衝撃を受ける。
この"存在感"があってこそ、『鬱屈した日常から逃げ出したいという一念で家出をするも、抜け出した先での未知の不安から、やはり引き返すことを選択した少年にとって、現実からは簡単には逃れられないという諦めにも似た思いが広がる中で、ある種の"救い"にも感じられた』というロジックが成立するし、事件の動機にもつながる重要な柱となっている。
その後、ハナは天城峠で起こった殺人事件の容疑者として逮捕されるのだが、警察の厳しい取り調べのシーンでは、トイレに行かせてもらえず失禁してしまうなど、一瞬で少年の心を奪った美しい女性とは真逆の薄汚れた女となり、事件を複雑化させる一因となるギャップの大きさを生み出している。
ミステリー作品であるためネタバレを回避すると、なかなかかゆいところに手が届かずむずがゆいのだが、とにもかくにも田中の登場シーンに作品の全てが支えられているといっても過言ではないし、その重要性に十二分に応えている田中の"存在感"は必見! もちろん、道中での小野寺少年とのやり取りの中で見せる可愛らしさや優しさ、事件の被害者の男との接触時の表情の変化、逮捕後の取り調べの様子など芝居の素晴らしさを挙げるとキリがないのだが、まずは"美し過ぎる"登場シーンに心奪われてみて欲しい。
文=原田健
放送情報
天城越え
放送日時:2022年11月8日(火)18:15~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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