対戦格闘ゲームの実写映画化という企画。なにしろ非常に難易度が高いジャンルと言わざるを得ない。「ストリートファイターII」に「鉄拳」、「DOA/デッド・オア・アライブ」や「ザ・キング・オブ・ファイターズ」などなど、ゲームセンターやお茶の間を散々沸かせたゲームが次々に映画化されてはオーディエンスに寂しい思いをさせてきた。珍妙なキャラクターたちが実写の画面に現れ、これらはゲームの通りであったり、そうでなかったりするのだが、大方の場合は「こんな話だったっけ...?」という腑抜けた物語のなかで馴れ合いのような格闘を演じてみたりする。
■のちの「バイオハザード」監督が「モータルコンバット」を実写映画化
対戦格闘ゲームが世界中で爆発的なブームを迎えたのは90年代中頃のことだ。そこまで大当たりしているならこれらを一発実写映画化してみるかと思うのが人情というもので、まずジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ストリートファイター』が公開されたのが1994年。原作となった「ストリートファイターII」の初登場は91年だが、それ以降もシリーズ作品はリリースされ続け、さらには各社から競合タイトルも続々と現れていた。確かに世界中に対戦格闘ゲームの大ブームが吹き荒れていた。懐かしい時代である。
1992年、米国ミッドウェイ社がゲーム「モータルコンバット」を発表したのは1992年。プレイヤーが自身で操る格闘家を選び、次々に現れる敵と1対1で戦うスタイルこそすでにおなじみのものではあった。だが、それらキャラクターを演じる俳優を実写で取り込んだグラフィック、それになにより対戦相手にとどめを刺す「フェイタリティ」なる残虐演出に、なにか言い知れぬ狂気を感じたものだ。相手の心臓を素手で抜き取る、口から炎を噴いて燃やす、またはアッパーカットで頭を丸ごと吹き飛ばす、などなど。当時の日本では「究極神拳」と翻訳されたこのウルトラ暴力システムが名物となり、ゲームは生まれ故郷のアメリカを中心に人気を集めた。
映画『ストリートファイター』が世界中のファンを落胆させた翌年の1995年、『モータル・コンバット』も長編劇場映画として大々的に公開された。監督は後に「バイオハザード」シリーズ、『エイリアンVS.プレデター』(2004年)を手掛けることになるポール・W・S・アンダーソン(当時はただのポール・アンダーソンだった)。
魔界と人間界、それぞれの覇権をめぐって古来より戦われてきた格闘トーナメント。それがモータルコンバットである。各勢力から選ばれた選手が激突、10大会連続で勝利を収めたほうが相手の世界を支配することとなる。映画本編が始まった時点では魔界の勢力がすでに9回勝利しており、あと一度の敗北で人間界の滅亡が決まる。
このモータルコンバットを制するために集められた人間界の戦士たちを、映画はぼちぼち描いていく。中国の格闘家リュウ・カン(ロビン・ショウ)、アメリカの捜査官ソニア・ブライド(ブリジット・ウィルソン。もともとはキャメロン・ディアスが演じるはずだったが負傷により交代)、そしてアクション俳優ジョニー・ケイジ(リンデン・アシュビー)。なんだかえらい昔から生きているっぽい謎の人物ライデン(クリストファー・ランバート)と共に、これまた謎の男シャン・ツン(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)の支配する謎の島(また謎だ。謎だらけだ)に集結する。
島で戦士たちを待ち受けていたのは、傭兵カノウ(トレヴァー・ゴダード)や忍者サブゼロとスコーピオン、さらに四本腕の魔界の王子ゴロー(『エイリアン3』などでおなじみ、トム・ウッドラフ・Jr.らによるVFXが素晴らしい)など、恐るべき強者たちだった。ここに地球の命運を懸けたモータルコンバットの火蓋が切って落とされる...。
いったい何を言っているのかと思われるかもしれないが、もともとゲームの時点でそういう物語なのだから仕方がない。書けば書くほどに正気を疑われるようなストーリーを、映画は意外なほど真摯に伝えている(後に紹介する2021年版のリメイク『モータルコンバット』もだいたい同じ話なので、このあたりは頭に入れておいていただきたい)。
対戦格闘ゲームの映画化企画が常にぶつかる問題がある。原作の時点でキャラクターが無闇に多く、またそれぞれの造形が相当にバカっぽいため、これら全員を真面目に描けば映画の物語が破綻してしまうということだ。『ストリートファイター』が直面して乗り越えられなかったこの問題を、『モータル・コンバット』は実のところうまく処理している。二桁におよぶ登場人物のごく一部にだけストーリーを持たせ、あとの面々については原作由来の格闘能力だけを見せる、一種の暴力装置として機能させる。物語の焦点をぼやけさせることなくキャラクターそれぞれが元来持つ魅力を満遍なく見せた、この手腕は大したものだと思う。
ここをクリアしてなお、1995年版『モータル・コンバット』には一つ巨大な問題があった。レイティングである。映画の指定はPG-13。つまり中学生でも観られる作品として作られてしまった。つまり原作が持っていた最大の魅力、人体が真っ二つに両断され、脊椎ごと頭蓋骨が引っこ抜かれるウルトラ・バイオレンスは描きたくとも描けないということだ。フェイタリティ抜きのモータルコンバットは、モータルコンバットに非ず。いまから27年前、歌舞伎町の端のほうで深夜に本作を観た。松屋の牛めしを食べながら、まあ頑張ってはいたが、ねぇ...と、釈然としない思いを抱いたことをいまでも覚えている。
■「フェイタリティ」も景気よく飛び出す2021年版『モータルコンバット』
それから幾年月、まさかの新作映画『モータルコンバット』(2021年)が公開される。原作ゲームはいつしか10作を超える大フランチャイズとなり、ランボーやロボコップ、それにスーパーマンやバットマンさえゲストに迎えて相変わらずの大残虐祭りを繰り広げていた。そこへ降って湧いた新たな映画版は「死霊館」シリーズでおなじみジェームズ・ワンをプロデューサーに迎え、かつ俊英デイヴ・キャラハムが脚本を書くという。キャラハムは『エクスペンダブルズ』(2010年)に『GODZILLA ゴジラ』(2014年)、『ワンダーウーマン 1984』(2020年)を経て最新作『スパイダーマン : アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年公開予定)が控えるという、あまりにご機嫌なフィルモグラフィを誇る脚本家だ。生まれ変わったらこんな男になりたいと思う。
そんなやり手が書いた物語は先に紹介した95年の映画とさして変わらない。登場人物もだいたい同じだ(95年版の主人公の一人、ジョニー・ケイジはキャラクターが強すぎるという理由で登場せず)。何が違っているかといえば、かつての映画でついに見られなかったフェイタリティ、残虐極まる究極神拳がこれでもかと実写で見られることだ。今回晴れてR指定となった映画では実に景気よく人体が真っ二つになり、柏手一つで頭蓋骨が弾け飛ぶ。これぞ「モータルコンバット」である。ここへ来るまでに20数年の月日を要したと気づけば思わず感無量になる。
もう一つ重要な違いは、旧版で純然たる暴力装置として描かれた戦士、スコーピオンの役どころとドラマが大幅に増していることだろう。日本が世界に誇るアクションスター、真田広之がこのスコーピオンに扮して、映画の最初と最後でおいしいところをすべて持っていく。なんならもっと持っていってほしいと思う。
なんだかんだ大ヒットした21年版『モータルコンバット』、めでたく続編の製作が決まったらしい。真田演じるスコーピオンの物語は第一部でなかなか綺麗に完結しているのだが、そんなことは完全に無視して続編でまた大暴れしてほしいと思う。浅野忠信が扮したライデンも同様だ。彼らの活躍を世界に見せつけることこそが、いわゆる「クール・ジャパン」なのではないか。日本は国家を挙げて『モータルコンバット』続編に協力すべきだ。そろそろ何を言っているのかわからなくなってきたが、真面目にそう思う。
文=てらさわホーク
てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。
放送情報
モータル・コンバット(1995年)
放送日時:2023年2月25日(土)19:00~
モータルコンバット(2021年)
放送日時:2023年2月25日(土)20:56~、26日(日)12:15~
チャンネル:ムービープラス
モータルコンバット(2021)
放送日時:2023年2月2日(木)4:30~、14日(火)17:45~
チャンネル:スターチャンネル1
モータルコンバット(2021)[吹]
放送日時:2023年2月4日(土)4:15~、12日(日)6:00~
チャンネル:スターチャンネル3
モータルコンバット
放送日時:2023年2月13日(月)2:25~
チャンネル:WOWOWプライム
モータルコンバット
放送日時:2023年2月24日(金)2:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
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