押切蓮介が描いた「サユリ」を映画監督・白石晃士が映画化へ。押切「自由にやってほしいっていう気持ちもあったんですけど...」

――押切先生と同じでJホラーに「負け戦」を感じていらっしゃった?

白石「言葉は違うんですけど、Jホラーに対して不満はあります。自分もホラーを任される立場にあって、有名なホラー作品にも良い描写はあるけど『何が面白いのかな?』と思うことがあったんです。恐ろしい存在に人間がやられていくシーンで『なんで戦わないのかな?』って思っていました。今でも、低い制作費の範囲内で面白さを維持するホラーがヒットする可能性があるというのが日本のホラーの基本のスタンスです。戦うシーンを撮るとなると、お金も時間もかかってしまいます。でも、やっぱりそういうのが自分は面白いと思っていて。自分は主にアメリカのホラーで育っているので、みんな戦って、たとえ敗れることがあっても戦う姿が見られる。それがカタルシスになるんです。だから、日本の新しいホラーを観る時にちょっとつまんないと感じることが多くて、自分がやるならこういう風に人間をもっと強いキャラクターとして登場させたいっていう考えがありました。人間側のキャラクターが無個性であるというのもJホラーの定番です。プロデューサーが『もっと普通の人にしないか』と言うことが多いんです。ちょっと目立ったキャラクターを出すと反対されて、なかなかそういう作品を作らせてもらえないこともありました。『コワすぎ』シリーズも田坂プロデューサーと作った作品ですが、まさにそういうのを打ち破りたくて作った作品です。それを見て面白いと思っていただけた方の原作で、まさにそれが具現化されたのが『サユリ』です」

――その5~6年前ぐらいから意気投合された?

白石「その頃はちゃんとお会いしたことなくて、何となくシンパシーを感じていて、しっかりお会いしたのは制作のちょっと前ですよね。撮影より1年くらい前ですか...」

押切「お互いがどんな人なのかっていうのはなんとなくわかっていた。僕は白石監督の作品を通してわかっていたつもりです!」

白石「『コワすぎ』の上映にいらしていたので、ご挨拶はさせていただきましたよね。僕の作品を好んでいただけているんだなとは思っていました。シンパシーを感じていたからこそ、その辺の会話をせぬままに、そういうのは当然のものとして、『サユリ』の脚本どうしましょうか?っていう話をしました」

――今回の映画化にあたり、押切先生から白石監督ら制作陣にリクエストしたこと、映画化にあたってのこだわりはありますか?

押切「基本的には自由にやってほしいという気持ちがあったんですけど、最初の打ち合わせの時に僕が絵コンテ付きでいろいろ書いた気がします。理想を。赤入れをたくさんした気がします。今思えば、愚行を働いたなと(笑)。つまり、僕がネームを書いているときに監督が『ここはちょっと...』みたいなことをやっていたんじゃないかと思って後から考えると、あんまり口を挟むべきではなかったなと思いました。『ミスミソウ』の時は全く何も言わなかったんです。でも『サユリ』に対してはすごく思い入れが強すぎて、とにかく僕は全員のオーラが見たいという気持ちで描いた漫画なんです。その漫画が本当にJホラーになったら、やっぱり気持ちも躍るじゃないですか。だから口を挟みたくなるんです。意見を何か言った記憶もあります」

――そのリクエストを受けて白石監督が感じたことは?

白石「あんまり覚えてないです(笑)。でも、打ち合わせの前にかなり意見交換しましたし、『これ、いいですね』っていうのがかなりあったので。俊が死ぬ場所は当初は河原で場所が離れていたんですが、家庭内で目に見える形に変更したりとか...」

押切「俺が、風呂で良いんじゃないって、その方が撮影がスムーズにって...なぜかそういうところ気が回るんですよ(笑)。」

白石「最終的にはこの建物の構造は、撮影現場の物件を見てから、ここで落としたらいいんじゃないって言ってたんですよ。あれはあれですごい良かった」

――本作はアクションがあったりなど多様な魅力がありますが、お二人それぞれの立場から原作と映画の魅力を教えてください

押切「ただのホラー映画じゃねぇぜっていうのがとにかくありますね。普通のホラーじゃないっていうのを思い知ってほしい。ホラー映画が怖いのは当たり前だし、みんな怖い思いをしたくて観に来てるから怖くて当然なんです。それだけじゃ終わらないっていうのを思い知って観てほしいし、新しい感覚にもなってくれるはずだし、勇気づけられるんじゃないんですか。日常生活でいないはずの幽霊におびえてる人達が『もう大丈夫だ』って気持ちになってほしい。とにかく、勇気づけられてほしい。あとは、原作が今まで描いた作品で一番好きなので、思い入れがあるし、読み返すとうるっと来るものがあるんですよね。それと同じ感覚が映画でも感じられると思う。Jホラーで3回泣いたのは初めてなんですよ。Jホラーは辟易として、ただボコボコにされる人間を見続けて、ああ人間かわいそうな目にあって、この世の者じゃない者の気持ちが勝っちゃったねって終わってたんですよね。でも、そうじゃない、生きている人間の気持ちももっとすげえんだぞっていう矜持を見せつけられたと思います。白石節が凄い映画だと思うんですよ。それは普通に白石監督ファンとしても楽しみです」

白石「原作はやっぱり押切さんの絵柄が基本的に可愛らしくて、漫画ならではの魅力があります。そういう中で恐ろしい出来事をかなり直球で描いているということの魅力がすごくあると思います。霊的な恐怖にしろ、暴力的な恐怖にしろ。そして、内容に関しては、霊的なものに人間が生命力で打ち勝つという前半と後半でくっきりした構成が魅力です。自分も実写映画にする上で、変更した部分はありますが、基本的には漫画からシンパシーを感じられた要素を、映画でも感じ取れるようにしたいと思って作りました。その辺は似た感覚を得られたとおっしゃっていただけたのはすごく嬉しいですし、上手くいけたんじゃないかなと思います。自分の作品としてキャリアの節目となる作品が出来たなと思っているので、とにかく嬉しいし、観てほしいですね。原作を読んでいない方も、ぜひ原作を読んで、両方味わっていただきたいです!」

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公開情報

映画「サユリ」
公開日:2024年8月23日(金)
配給:ショウゲート

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