池田千尋監督が吉岡里帆水上恒司と"どこまで近づけるか"トライした映画『九龍ジェネリックロマンス』

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映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真
映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真

――本作は食べ物のシーンの印象が強いですが、撮影でのこだわりはありますか?

「私、実は食べ物に異常な拘りがありまして(笑)。特にこの作品では"食べる=生きる"という感覚があったので、そこをどうリアルに見せられるかにはこだわっています。例えば、スイカをどの厚さで切るか、切り方がどうなのか?とか。ロケ地のスイカは日本のものと違って細長くて大きいので、理想の形にならなくていろんな切り方を延々と試しました。レモンチキンもかなり拘りました!現地の唐揚げは小さいものが多いのですが、大きいものを出したくて。私の中でレモンチキンを食べているシーンは強い意味があって、この世界は幻の世界だと観ている人にも情報として伝わっている中で、レモンチキンをおいしいと食べていることで『ちゃんと生きてるんだ』という印象をつけたかったんです」

――特に撮影で意識された点や、映像面で工夫された点はありますか?

「"記憶の中のショット"と"現実のショット"をどう分ければ明確になるかをまず考えました。また、このストーリ―は主人公である令子が、実はもう1人いるという鏡合わせの世界の話なので、鏡を作品の中でどう扱っていくか、カメラマンの方ともアイディアを出し合い、実験も重ねながら撮影しました」

――こだわりのシーンがたくさんあると思いますが、その中でも特に池田監督の印象的なシーンはありますか?

「とにかくこの作品に映るものは"懐かしく"すること、実際の九龍城砦とは違ったこの作品だけの"私たちの九龍"を作ること。この2点が今作を作る上でのキーワードでした。一つひとつ目に映る全てのものに懐かしさを感じさせたいというこだわりで、小道具からエキストラの設定や衣装まで細部に作り込んでいます。台湾という場所そのものに人の存在の仕方も含めた懐かしさがあり、その空気感も存分に生かした九龍を目指しました。
そんな異国のリアルな空気の中で、令子と工藤のシーンを密に積み上げていったこともあり、二人の関係性がリアルに揺れ動いていく感覚があったのですが、それがついに結ばれて二人の心が通い合った瞬間を撮れたと感じた、あるシーンが強く印象に残っています。そのシーンで最後に引きの画を通しで撮影した時、吉岡さんがそれまでになかった思いがけない動きを見せてくれたんです。その瞬間が生まれたことに感動してしまって、『カット』の声が出なくなったんですよ。胸が詰まりすぎて声が出なくなるというのは、監督業の中でも初めての経験で、忘れられません」

――最後に、作品を観る方にメッセージをお願いいたします

「眉月さんの原作漫画『九龍ジェネリックロマンス』を好きな方にはもちろん、まだ読んでいない方にもぜひ観てもらいたいです。人が誰かを好きになるパワーとか、それを人に伝えるためには何が必要かということを、この作品では描いています。伝えるためには自分をまずは受け止めなきゃいけない。それは自分が背負ってきた過去に向き合うことでもあると思うんです。自分を受け入れて、気持ちが通じ合うことができたら、未来に何が起こっても、それができた自分は一生残り続けると感じられる作品です。恋をしたい人も、今、恋をしている人もぜひ観てほしいです。また、異国の街の懐かしさであったり、ストーリーの中のたくさんの謎であったり、宝箱のようにいろいろな要素が集まった映画になっていますので、多くの人に楽しんでいただけたら嬉しいです」

映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真
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文=HOMINIS編集部

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映画情報

映画「九龍ジェネリックロマンス」
2025年8月29日(金)公開
(c)眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
企画・配給:バンダイナムコフィルムワークス

詳しくは
こちら

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