永瀬拓矢二冠 "負けない将棋"でタイトル防衛の壁に挑む

トップ棋士の中でタイプを分けるとしたら、努力型に分類されるのが永瀬拓矢二冠だろう。将棋界で最も多くのVSや研究会をこなしていると言われている。

■2009年にプロデビュー、2019年悲願の初タイトルを獲得

永瀬は2009年に17歳でプロデビュー。努力型と言ってもかなり早いデビューで、素質は十分だった。デビュー直後はアマチュアにも黒星を喫するなど苦戦が続いたが、1年が経ってプロの水に慣れると一気に勝ち始める。2012年に第43期新人王戦、第2期加古川青流戦と若手棋戦でダブル優勝し、一気に花開いた。

2013年度の第39期棋王戦、2015年の第28期竜王戦で挑戦者決定戦に進むが、いずれもあと1勝が遠く挑戦権獲得はならず。初のタイトル戦は2016年の第87期棋聖戦五番勝負となった。羽生善治棋聖(当時)を相手に2勝1敗と追い詰めるが、羽生の底力を前にフルセットで敗退。2017年度の第43期棋王戦五番勝負で2度目のタイトル挑戦。渡辺明棋王を相手にこちらも一進一退の進行となったが、またもフルセットで敗れた。

わずかにタイトルに届かない状況が続いていたが、2019年に爆発。春に行われた第4期叡王戦七番勝負で高見泰地(※「高」は正しくは「はしご高」)叡王(当時)を相手に4連勝で奪取。悲願の初タイトル獲得となった。さらに秋の第67期王座戦五番勝負にも登場し、斎藤慎太郎王座(当時)を相手にこちらも3連勝。圧巻の強さを見せて一気に二冠へと上り詰め、トップグループの仲間入りを果たした。

叡王戦での戦いに注目が集まる永瀬拓矢二冠

(C)囲碁・将棋チャンネル

■最強の挑戦者・豊島将之竜王名人とのタイトル防衛へ

元々は三間飛車でひたすら受けに回る棋風だったが、20歳のころに居飛車党に転向。稀に振り飛車を指すこともあるが、基本的には手厚い棋風の居飛車党だ。その棋風は"負けない将棋"とも評され、著書のタイトルにもなっている。

また、千日手を苦にしない棋風で、「もう一局勉強できるので」と先手番でも千日手を選ぶことがある。基本的に千日手はわずかに不利とされる後手番が目指すものとされている(千日手となると先手後手を入れ替えて指し直す)ので、かなり珍しい棋士だ。NHK杯で一局に二度千日手に持ち込んだり、二冠目を獲得した王座戦のシリーズ第1局でも千日手にし、指し直し局を制している。

永瀬もタイトル防衛の壁に臨む。近年の若手では佐藤天彦九段が名人3連覇を果たしたものの、糸谷哲郎八段(竜王戦)、菅井竜也八段(王位戦)、斎藤慎太郎八段(王座戦)、中村太地七段(王座戦)、高見泰地七段(叡王戦)が初タイトル獲得翌年の防衛に失敗している。そして破竹の勢いを見せている豊島将之竜王名人でさえ棋聖戦、王位戦では防衛には失敗しており、いかに防衛戦が大変かを示している。

永瀬(叡王戦)は相変わらず勝率が高く好調だが、挑戦者は渡辺明三冠との最高峰の挑戦者決定戦を制した豊島将之竜王名人と強敵だ。最強の挑戦者を退けその地位を固めることができるか、注目のシリーズだ。

文=渡部壮大

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放送情報

タイトル戦 徹底解説 #942 第67期 王座戦 挑戦者決定戦 豊島将之名人 vs 永瀬拓矢叡王
放送日時:2020年3月15日(日)17:00~ほか
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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