役の人格を掘り下げるメソッド・アクティングを一般化した映画界の重鎮ロバート・デ・ニーロ。第一線で活躍する後進の役者たちにも多大な影響を与えた彼の代表作3本を有村さんが解説する。
有村さんが「デ・ニーロを語る上で避けては通れない」と語る全盛期に作られた3本。中でも『タクシードライバー』にはまったく色あせないデ・ニーロの名演が刻み込まれている。
「デ・ニーロが輝きを放ったのは、ベトナム戦争の泥沼化によってアメリカ政府の信用が地に落ちた混乱の時代。そんな時代背景から生まれたのが、悲劇のヒーローであるトラヴィスというキャラクターです。ハイライトは名セリフとして知られる、鏡に向かって『俺に話し掛けてんのか?』と問うシーン。演技に見えない、深層心理まで役に成り切るメソッド・アクティングから生まれた狂気のセリフですが、デ・ニーロは撮影前にタクシー運転手として実際に働いて、役柄を体に染み込ませた上で、現場に臨んでいます。だからこそ、思わず出た即興的なセリフにも説得力がある...これこそがデ・ニーロの演技のすごさですね」
役に合わせて自身の生活や体型をも変える"デ・ニーロ・アプローチ"の一つの到達点を迎えたのが『レイジング・ブル』だ。
「ボクシングの世界チャンピオンで引退後にコメディアンになるラモッタという人物を演じるには、引退後の太った体にならなければいけない...というシンプルですが徹底した役作り。ここまでやったのはおそらく彼が初めてで、その異常な太り方は非常にショッキングです。'80年当時のアメリカが時代の転換を迎えても、新しい時代に対応できずにチャンピオンの地位からどんどん落ちていく男の悲哀を、デ・ニーロが全身全霊をささげた役作りで表現しています。本当に命を削って俳優をやってるんだなと恐れ入りました」
この2本の間に作られた『ディア・ハンター』を見直した有村さんは、役者陣の目が血走った演技に恐怖すら感じたそうだ。
「戦争中はもちろん、その後も若者たちの人生が狂ってしまうという、痛烈な反戦映画です。帰還兵たち、その周囲の人たちを描く群像劇で、デ・ニーロはもちろん、クリストファー・ウォーケン、メリル・ストリープらの演技合戦がとにかくすごくて、まさにトラウマ級。先輩としての背中を見せるという意味では、共演者たちはみんなデ・ニーロの演技に影響を受けていると思います。そう考えると、ハリウッドの映画の歴史において、デ・ニーロ先輩の功績は計り知れないですよね」
ありむら・こん●'76年7月2日生まれ、マレーシア出身。年間500本の映画を鑑賞。最新作からB級映画まで幅広い見識を持つ。YouTubeでは「有村昆のシネマラボ」で本音の映画批評を配信中。
聞き手=山崎ヒロト(Heatin' System)
放送情報
タクシードライバー[4K修復版]
放送日時:2020年10月5日(月)22:50~ ほか
レイジング・ブル
放送日時:2020年10月12日(月)23:45~ ほか
ディア・ハンター[4K修復版]
放送日時:2020年10月24日(土)17:45~ ほか
チャンネル:シネフィルWOWOW
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