豊島将之竜王、藤井聡太二冠、羽生善治九段らトップ棋士がずらりと並んだ今期の王将戦挑戦者決定リーグを勝ち抜いたのは永瀬拓矢王座。最終戦で広瀬章人八段に敗れて豊島竜王と5勝1敗で並びプレーオフとなったものの、本割に続く勝利で挑戦権を手にした。
渡辺明王将と永瀬がタイトル戦で顔を合わせるのは約3年前の第43期棋王戦五番勝負以来2度目。当時の渡辺は竜王失冠、A級陥落と成績が落ち込んでいたが、棋王の防衛戦はフルセットで守り抜き、無冠転落の危機をしのいだ。20歳で初タイトルの竜王を獲得して以来ずっとタイトルを持ち続けているが、棋士人生最大のピンチだったろう。このシリーズを制したことが後の復活の始まりと言える。
渡辺は現在王将のほか名人、棋王の三冠を持つ棋界の第一人者だ。名人獲得後はやや調子を崩している印象だが、経験値は十分で冬のダブルタイトル防衛戦には間違いなく調子を上げてくるだろう。
永瀬は二日制のタイトル戦を戦うのは初めて。ただ、千日手や持将棋を含む長期戦を苦にしないタイプなので、長い持ち時間を持て余すことはなさそうだ。永瀬は棋士の中では対局中の動きが多い方で、バナナをはじめ大量の食物、飲料を取ったり、着替えたりもする。動画で視聴する際にはそういった楽しみもあるだろう。
渡辺と永瀬の対戦成績は渡辺から見て10勝3敗と偏っている。とは言えほとんどの対局が永瀬がタイトルを獲得する以前のもので、最後の対戦は1年半以上前。その後も着実に力を伸ばしているので、過去の対戦成績はそれほど気にならないだろう。ちなみにこの1年で渡辺は叡王戦と王座戦、永瀬は棋聖戦とそれぞれ相手の持つタイトルの挑戦者決定戦で敗れていたので、すれ違い続きからようやくの巡り合わせだ。
渡辺は居飛車党。永瀬も基本的には居飛車が主戦場なので矢倉、雁木、角換わり、相掛かり、横歩取りなど相居飛車が主戦場となるだろう。ただ、このところ永瀬はたまにノーマル四間飛車を採用しており、振り飛車が見られる可能性もある。今期の王将リーグで藤井を破ったのも四間飛車だった。渡辺の先行逃げ切りパターンにはまらない限りは長手数の熱戦となることが予想される。
渡辺は棋聖戦で藤井に敗れるまで、タイトル戦で年下には全勝だった。平成生まれ世代の若手にとって最大の壁であるが、永瀬も壁を破ることができるか。七番勝負は1月10日(日)、11日(月)に静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」で開幕し、11日(月)の対局は囲碁・将棋チャンネルで放送される。フルセットになれば3月下旬まで掛かる長丁場だが、白熱のシリーズを制するのは果たして。
文=渡部壮大
放送情報
(生放送)第70期 王将戦七番勝負 第1局 2日目
放送日時:2021年1月11日(月)8:57~、14:00~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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