4連覇を目指す永瀬拓矢王座に挑むのは豊島将之九段となった。藤井聡太竜王、渡辺明名人が姿を消す中、安定した指し回しを見せた豊島が王座戦では8年ぶりの挑戦権獲得だ。挑戦者決定戦では初のタイトル戦出場を目指す大橋貴洸六段をねじ伏せている。
豊島の前回の王座戦五番勝負は2014年の第62期。当時の豊島はタイトル戦2度目の登場。絶対王者の羽生善治王座(当時)に2連敗から2連勝と逆襲するものの、初タイトルを懸けた最終局に敗れて奪取はならなかった。現在の豊島は王位戦七番勝負で藤井王位に挑戦しており、強敵との対決が続くこととなる。
一方の永瀬は第67期に斎藤慎太郎王座(当時)から奪取。その後は久保利明九段、木村一基九段とベテランの挑戦をはね返して3連覇中だ。
両者の対戦成績は永瀬から見て10勝9敗2持将棋と互角。印象深いのは2020年の第5期叡王戦七番勝負で、語り草となっているシリーズだ。この時は永瀬叡王に豊島竜王名人が挑戦。ちょうどコロナ禍が始まり最初の緊急事態宣言と開幕戦が被ってしまい、第1局は宣言が明けるのを待って2ヶ月遅れで行われることとなった。その第1局はいきなり千日手となり、指し直しは豊島が制す。ここまではよくあることだが、続く第2局、第3局は相入玉の末に持将棋となり引き分け。持将棋は非常に珍しく、タイトル戦では10年に1回あるかどうかというレベルで、それが2局続けて出現した。その後も一進一退の戦いが続き、3勝3敗2持将棋で七番勝負は異例の第9局に突入した。結果は最終局を快勝した豊島が奪取、第6期からはスポンサーが変わり、タイトル戦も五番勝負になっている。七番勝負で「第9局」のような表現は今後見られることはないだろう。
両者は基本的に居飛車党だが、永瀬は振り飛車も指すことがある。角換わりと相掛かりが中心となることが予想されるが、他の戦型も出現するかもしれない。いずれにせよ、研究の深さに定評のある両者の番勝負でもあり、指された将棋がそのまま最新形になることだろう。ただ、どちらも粘り強い棋風であり、簡単には決着がつかず、ねじり合いが勝負を分けそうだ。五番勝負だが5局以内に決まるとは言い切れず、対局もシリーズも長い戦いとなるだろう。
注目の五番勝負は8月31日に開幕する。永瀬は防衛すれば4連覇となり、来期は永世称号の名誉王座(5連覇または通算10期)を狙うことができる。一方の豊島は無冠返上を懸けての戦いとなる。実力伯仲で熱戦必至のシリーズだが、終了後にタイトルを手にしているのはどちらになるだろうか。
文=渡部壮大
放送情報
将棋熱戦 徹底解説 #9 第42回 将棋日本シリーズJTプロ公式戦 準決勝 豊島将之JT杯 vs 渡辺 明名人
放送日時:2022年8月17日(水)14:38~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
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