槇原敬之「Showcase the Live!」2時間半の舞台裏、映像制作に密着

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奥から清田、勝田、松井
奥から清田、勝田、松井

「意味のないカットはな い」と言い切る松井監督の、この指示が「客席の灯りは星座」「槇原さんに伸びる照明は空からの階段」といった具合に、実に細かくて具体的。カットごとに求められる作業が一目瞭然である。曲タイトルテロップは、フォントからグラデーションの色の具合まで指定されていた。清田いわく「ここまで書いてくれる方はまずいない」のだとか。「指示が明確だから分業できるんです。全体的な色の方向性含め、お任せの方もいらっしゃいますが、シークエンスの整理ができていなかったり、指示が明確でないと、本来クリエイティブに使いたい時間をそれ以外に使うことになるので大変ありがたいです」

グレーディング前とグレーディング後
グレーディング前とグレーディング後
歌詞にあわせて、上部のカーテンの揺れを目立たせる調整
歌詞にあわせて、上部のカーテンの揺れを目立たせる調整

色補正はカット単位。彩度や明度を上げたり下げたり、色調を変えたり、(槇原の場合はやっていないそうだが)肌のトーンも調整できる。清田に松井監督の映像の特徴を尋ねると、まず出たのが「カットを長く使用する」。2時間半で約1800カットで、通常は2600~2800カット、この直前に彼が手がけたあるバンドは3800カットに及んだそうだ。「カットを長く使用するので、観ている方もしっかりとそのカットを認識できる。カメラマンさんも嬉しいんじゃないでしょうか」

今は音に合わせてカットを細かく割っていく作品が多いそうで、たしかにキレがよくなるし、かっこいいだろう。ワンカットを長く見せ、必ずしも音で切らない松井流は、それとは違うものを見せようとしているわけだ。では何を見せようとしているのか? 僕なりに言葉にすると「ストーリー」ということになるが、清田の「芝居をやってる方たちのつなぎ方に通じるものがある気がします。舞台を見てるみたいな」という指摘には膝を打った。槇原とバンドメンバーがそれぞれに見せ場を与えられ、役柄を演じ、インターアクトする舞台俳優たちのように見えるのである。

清田は「どうやったらこれが撮れるのか、打ち合わせを見てみたい」と言うが、僕が7月に東京ガーデンシアターの控室で目にした打ち合わせはあっさりしたものだった。そう言ったら「そうなんですか?それでここまで撮れるんですか!?」と驚いていた。事前に「こういう画を」と指定するよりも(ゼロではないが)、カメラマン個々の技量とセンスを信頼して自由に動いてもらい、16本の素材から答えを探していくのが松井監督のスタイル。松井は「私はOL」と言うけれど、これほどアーティスティックなOLはなかなかいないだろう。

勝田撮影監督の名参謀ぶりも圧巻だった。長い経験に裏打ちされた「見る目」と持ち前のコミュ力で、あちこちで一緒に仕事をした人から優れたカメラマンやエディターを覚えておき、案件ごとに声をかける。ツアー前半だけでなく撮影前日の公演も下見する。松井は「私は勝田さんにオーダーできた時点でもうオッケー、安心っていう感じなんです」と言う。この信頼の厚さ!

最後になるが、完パケ映像も観せてもらった。中身には触れないが、本編もエンドロールも(おまけも)すばらしく、とにかくユニークな映像だった。読者のみなさんはレポート前編に引いた勝田撮影監督のカメラマン各位への指示「知らなかった曲を初めて聴いて、好きになってもらいたい」を覚えておいでだろうか?そのテーマを生かした演出が施されている、とだけお知らせしておこう。僕はポスプロ前の段階でその仕掛けを松井監督から聞かされ、感服した。見てのお楽しみ、気づいたらこっそり教えてほしい。

レポート前編はこちらから

文=高岡洋詞

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放送情報

『槇原敬之 Concert 2025 Buppu Label 15th Anniversary “Showcase the Live!”』
収録日:2025年7月9日/収録場所:東京ガーデンシアター
放送日時:2025年9月28日(日)21:00~ 独占放送&配信
チャンネル:WOWOWプラス
スカパー!番組配信にて放送同時&2週間の見逃し配信あり
スマホ・タブレット・PCなどで放送同時配信と見逃し配信をお楽しみいただけます。
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