山下達郎がほれ込んだ、日本映画不朽の名作『人情紙風船』の魅力とは?

「日曜邦画劇場」軽部真一支配人(左)と濃厚な映画トークを繰り広げた山下達郎
「日曜邦画劇場」軽部真一支配人(左)と濃厚な映画トークを繰り広げた山下達郎

フジテレビの軽部真一アナウンサーが支配人(解説)を務め、これまで名だたるゲストを迎えて日本映画の名作から新作まで紹介し続けてきた「日曜邦画劇場」。その放送開始20周年&1000回記念となる7月4日(日)の放送では、名匠・山中貞雄の傑作『人情紙風船』(1937年)の4Kデジタル修復版がオンエアされる(2Kダウンコンバートにて放送)。

江戸時代、下町・深川の貧乏長屋を舞台に、そこに暮らす人々がやがて破滅に向かっていく様を切り取ったこの作品を「人生の1本」と公言するのが、シンガーソングライターの山下達郎。今回の放送では、その山下がスペシャルゲストとして音声のみで出演。テレビにはほぼ露出しない彼が番組に初出演してまで語った『人情紙風船』の魅力、素晴らしさとは?

山下が『人情紙風船』と出会ったのは1980年代後半、30代の頃。「映画評論家の蓮(※「蓮」は正しくはしんにょうの点二つ) 實重彦さんのエッセイを『BRUTUS』で読んで、映画の存在を知ったんですけど、近所のレンタルビデオ店で何気なく借りてみたら、雨上がりの朝空の冒頭シーンからすべてが美しくて。その映像美は筆舌に尽くし難い」と興奮気味に語る。「しかも、当時の日本映画は教訓めいたものが多いけれど、そういったエクスキューズがないのもカルチャーショックで。僕は初めて会う人には必ず、人生の1本を尋ねるんですが、僕にとっては『人情紙風船』こそその1本。映画館でかかると今でも必ず観に行くし、何十回観たか分からない。まったく飽きない大切な作品」と、番組で同作への思い入れを明かしている。

『人情紙風船』は28歳の若さで戦病死した山中監督の遺作。本作を含め、フィルムが現存する山中監督の作品は『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(1935年)、『河内山宗俊』(1936年)のわずか3本。だが、山下が河竹黙阿弥の歌舞伎の演目「髪結新三」を映画化した『人情紙風船』に特に惹かれたのはなぜなのか?

収録へは古書店で購入した当時の「キネマ旬報」を持参し、1時間語り尽くす

撮影:菊地英二

「人間を見る目が非常に明確で的確なんです。肯定する要素とペシミズム(悲観主義)のバランスも上手にとれているし、演出が見事ならそれに対応する役者も芝居がかってなくて、とても自然だから絶賛の言葉しかない。頭から最後まで何の文句もないし、連続するその自然さこそがこの作品の魅力のすべてだと思います」

4Kデジタル修復版も昨年の東京国際映画祭での初上映時に足を運んだ山下は、「いい時代になりましたね」としみじみ続ける。「デジタルに否定的な人もいますけど、4Kになったことで遠くのものや建物のエッジなどが鮮明に見えるようになった。セリフも聞き取りやすくなったから、封切り当時のニュープリントに近い状態の『人情紙風船』を昭和12年のお客さんと同じ感覚で体験できる。デジタルの技術が発達して本当によかったと思います」

山下にそこまで言わせるのであれば、映画好きなら観ずにはいられないはず。今回は4Kデジタル修復版を2Kにダウンコンバートした形式での放送ではあるが、山下が語っている映像も音声もクリアーな名作を自宅で観られる貴重な機会。初めて観る人はもちろん、昔観た人も新たな衝撃と感動を覚えるに違いない。

取材・文=イソガイマサト

山下達郎●1975年、シュガー・ベイブとして、翌年ソロとしてデビュー。83年リリースの『MELODIES』に収録された「クリスマス・イブ」が、30年連続オリコンチャートにランクインし、2016年ギネス世界記録に公式認定された。21年7月、自身のレギュラー番組「サンデー・ソングブック」が放送1500回を迎える。現在も第一線で幅広く活動中。

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放送情報

【日曜邦画劇場SP 放送開始20周年・1000回記念】
人情紙風船<4Kデジタル修復版> ※2Kダウンコンバートにて放送
放送日時:2021年7月4日(日)21:00~、8日(木)20:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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