宇垣美里のときめくシネマ>今知るべき痛みを描いた作品が集う ヴェネチア国際映画祭の受賞作に圧倒される

経済格差の厳しいメキシコを舞台に、裕福な夫婦が暴徒化した市民に襲われる「ニューオーダー」
経済格差の厳しいメキシコを舞台に、裕福な夫婦が暴徒化した市民に襲われる「ニューオーダー」

(C)2020 Lo que algunos soñaron S.A. de C.V., Les Films d'Ici

第77回に審査員大賞などを受賞したのは、メキシコの鬼才ミシェル・フランコ監督による近未来ディストピアスリラー「ニューオーダー」(2020年)だ。本当に救いがなくて、観た後絶対に元気がなくなるので、後の予定を気にしてから鑑賞してほしい。

裕福な家庭に生まれたマリアン(ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド)は結婚パーティーを開催し、周囲からの祝福を受けていた。しかし、そこへあまりの格差社会に抗議する市民たちが暴徒化して襲撃。運良く難を逃れたマリアンだったが、彼女をさらなる地獄が待ち受けていた。

現実に経済格差が激しく、軍事国家となりつつあるメキシコ社会を舞台にしており、こんな未来が決してあり得ないと言いきれないのがこの映画の怖いところ。もう後戻りなどできないほどに信じていた世界が崩れていくシーンは、その規模の大きさ、カオス度も相まって目を背けることしかできなかった。凄まじく理不尽な暴力の数々の一方、射殺や拷問のシーンなどの描写は極力抑制されていたように思うのに、あまりの地獄絵図に精神的にどんどん苦しくなってくる。86分というコンパクトな作品にもかかわらず、その後12時間ほど引きずったのでもはやコスパがいい(?)。鑑賞後は緑色に拒否感を示してしまうこと、間違いなし。胸糞、後味悪い系映画が好きな人はぜひ。

取り上げた3作品はどれも「観やすい作品」とは言えないだろう。歴史的な背景への知識を必要とするものだったり、絵としてあまりに痛かったり、救いがなかったり。けれど、映画だからこそより実感を持つことのできる「知るべき痛み」だと思うのだ。幸せな気持ちやキュンや前向きな学びを映画に求めるのもいいけれど、たまにはこんな劇薬も、試してみてはいかがだろうか。

文=宇垣美里

宇垣美里●1991年生まれ 兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサーとして、テレビ、ラジオ、雑誌、CM出演のほか、女優業や執筆活動も行うなど幅広く活躍中。

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パラレル・マザーズ
放送日時:2023年9月3日(日)22:00~、15日(金)2:15~

ニューオーダー
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あのこと
放送日時:2023年9月5日(火)23:00~
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パラレル・マザーズ
放送日時:2023年9月6日(水)2:25~
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