舞台やドラマなど多彩なジャンルの作品に出演し、確かな演技力を発揮しているキム・ソンホ。小さな海辺の町を舞台にした優しいラブストーリー「海街チャチャチャ」(2021年)で、"ホン班長"と呼ばれるチャーミングな"万能ニート"の青年を自然体で演じて大ブレイク、国内外で人気を得た。
そんなソンホの映画初主演となった作品が、サスペンス映画「貴公子」(2023年)だ。1月19日(日)にWOWOWシネマで放送される本作は、韓国クライムサスペンスの傑作と名高い「新しき世界」(2013年)や「THE WITCH/魔女」(2018年)に始まる"魔女ユニバース"シリーズが絶賛されたパク・フンジョン監督が手掛ける新たなアクションノワールとなっている。
韓国映画界におけるノワールジャンルの巨匠が監督・脚本を務める時点でクオリティに間違いはない。莫大な遺産をめぐって繰り広げられるバトルと駆け引き、銃撃戦や接近格闘にカーチェイスなど迫力あるアクションシーンで、息詰まる攻防を展開。二転三転する予測不能のストーリーテリングと魅力的なキャラクターが、作品の世界に惹き込んでいく。サスペンスだけでなく、一瞬も見逃せないアクションやスリルにユーモアまで、多彩なジャンルが楽しめる作品だ。
韓国人の父親とフィリピン人の母親の間に生まれ、病気の母のためにフィリピンで日銭を稼ぐ青年・マルコ。ある日、父の使いを名乗る男が現れ、まだ見ぬ父に会うことになる。韓国に向かう飛行機の中で、マルコは自らを「友だち(チング)」と呼ぶ謎の男"貴公子"に出会う。不気味に笑う男に恐怖を感じて逃げだすが、どこまでも執拗に追跡されて徐々に追い詰められていく...。
ソンホが演じるのは、貧しい青年マルコの前に現れる正体不明の美しい男。謎多きところは同じでも、ブレイクのきっかけとなった「海街チャチャチャ」での愛すべき優しい青年・ホン班長とは正反対と言ってもいいキャラクターだ。すらりとした体躯にブランドスーツをスマートに着こなす、品のある端正な顔はまさに"貴公子"。だが、その言動は謎めいていて、どこか楽しげに無慈悲で残虐な行為を繰り返す。
友人と名乗りながら、容赦なく周囲を破壊し続け執拗に追い回す姿は敵か味方かはたまた悪魔か、まったく得体が知れない。他を圧倒するオーラと強さは、もはや人間を超越した何者かのようで、狂気を感じさせる。それぞれに思惑を持つ異なる集団がマルコの命を狙う中で彼の真の意図は次第に明らかになっていくが、余裕たっぷりの不敵な笑みも時折見せるコミカルな仕草に軽いジョークさえも、かえって恐ろしい。
それでいて、周囲を華麗に翻弄する様に自然と惹きつけられてしまう。ありがちなサイコパスではない魅惑的な血濡れた貴公子を、ソンホはミステリアスかつユーモラスに熱演。当たり役となった爽やかな好青年のイメージを鮮やかに一新した。
また、マルコを怪しく翻弄する美しき女性弁護士・ユンジュを演じたコ・アラは、本作で久しぶりのスクリーン復帰を果たした。「花郎<ファラン>」(2016年)や「ヘチ 王座への道」(2019年)など日本でもファンの多い大ヒットドラマに出演してきたアラは、これまで演じてきた役柄とは異なる謎の女役で物語を盛り上げる。1980倍という競争を勝ち抜いてマルコ役に抜擢された新人カン・テジュも、実力派に囲まれながらプレッシャーを跳ね除けて生き生きと躍動した。
しかし何より、満を持しての鮮烈なスクリーンデビューを飾ったソンホが本作の大きな見どころと言えるだろう。パク・フンジョン監督の手腕と、その信頼に応える熱演を見せたキャスト陣によって新たな韓国アクションノワールの傑作が誕生した。
文=中川菜都美
放送情報【スカパー!】
貴公子
放送日時:2025年1月19日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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