戦闘経験がほとんどない71名の学徒兵。そのリーダーに任命されたのが、物静かな学生オ・ジャンボム(T.O.P)だった。気の弱いジャンボムは、最初は戸惑いながらも部隊を統率しようと奮闘する。だが、彼の指示に対し、筋金入りの反逆児ガプチョ(クォン・サンウ)ら一部の不良学生が反発。ジャンボムとガプチョは事あるごとに衝突するのだが、ジャンボムはそんな日々の様子を故郷の母親宛の手紙として書き綴るのだった...。

学徒兵を過酷な運命に陥れるのは、彼らの守るべき陣地を執拗に攻め続ける北朝鮮軍の冷酷非情なパク・ムラン少佐(チャ・スンウォン)だ。年齢もキャリアもはるかに上の名優チャ・スンウォンに対し、当時20代前半のT.O.Pは堂々と対峙し、複雑な思いを抱える少年を繊細に演じた。映画の序盤は言葉をほとんど発さず、戦争の恐怖や仲間の死に対する動揺を、大きく潤んだ瞳や緊迫した表情で表現。その"セリフなき演技"に高い評価が集まった。

また、あどけなさの残る気弱な少年が、次第にカリスマ性を持った兵士へと変化していく過程も心を打つ。極限状態に置かれながらも仲間を守ろうとする意志が芽生え、リーダーシップを発揮し成長していくジャンボム。挫けそうになっても必死に前を向き、その覚悟と執念を力強く演じたT.O.Pの熱演は、アーティスト出身というそれまでのイメージを覆し、俳優としての確かな実力を印象付けた。

T.O.Pが演技の才能を開花させ、俳優としてのキャリアを大きく切り拓くきっかけとなった「戦火の中へ」。当時から際立っていた圧巻の演技力を、改めて堪能してほしい。

文＝川倉由起子