"クイーン再評価"の熱はオスカーをも席巻!?最多ノミネート『ROMA/ローマ』ほかアカデミー賞予想

『ボヘミアン・ラプソディ』で主演したラミ・マレック(写真右)
『ボヘミアン・ラプソディ』で主演したラミ・マレック(写真右)

(C) 2018 Twentieth Century Fox

年に一度の映画界最大の祭典、第91回アカデミー賞授賞式が日本時間の2月25日(月)に開催される。下馬評では、ノミネート部門の多いアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』と、ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』(3月1日公開)が作品賞候補の2強とされているが、果たしてどうなるのか...?シネフィルWOWOWでは授賞式の前日に「第91回アカデミー賞 直前総予想」が放送、WOWOWプライムでは当日の授賞式が生中継される。今年はどんなドラマが生まれるのか注目が集まる。

今回は「スッキリ」(日本テレビ系)の映画解説でもおなじみのライター・よしひろまさみち氏による受賞予想を掲載。以下、気になる作品賞の行方や、『ボヘミアン・ラプソディ』選出の背景、その他トピックなどを語ってもらった。(※主要6部門の受賞予想は最下段を参照)

「『ROMA/ローマ』『グリーンブック』どちらが受賞でも"事件"」

『グリーンブック』

(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

いつもなら作品賞は、オスカー前哨戦とされるトロント国際映画祭の観客賞、全米製作者組合賞(以下、PGA賞)の流れでだいたい予測はつきますが、今年は特に混戦気味...。トロントとPGA賞を制した『グリーンブック』がほぼ当確...なんだけど、『グリーンブック』にとってネックになるのが、コメディ作品だってこと。『ラ・ラ・ランド』(2016年)しかり、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)しかり、作品賞候補として有力視されつつもコメディ要素が強めの作品は、オスカーを逃しています。とはいえ、コメディ要素があっても『アーティスト』(2011年)や『英国王のスピーチ』(2010年)のように獲れちゃったこともあるので、何とも言えないけれど...。

『ROMA/ローマ』

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

対抗馬となるのはもちろん『ROMA/ローマ』ですが、こちらはもっと大きなマイナスポイントが2つ。それは"全編スペイン語"と"Netflix作品"。前者に関してはモノクロ&サイレント映画『アーティスト』の前例もあるので、以前ほどの障壁にはならないし、アーティスティックかつドラマティックな作品はアカデミー会員好み。だけど、最大の問題が後者。PGA賞を逃したことで、やはりNetflix作品に対しては「作品賞はあげられないよね」っていう流れが見え隠れします。というのも、興行主(劇場)側がNetflix作品のオスカー候補入りには大反発していて、脅威に捉えているのです。映画業界が一番仲良くしているのは、お客さんと一番近くにいる興行側なので、そちらの顔色を見ていることは言うまでもないでしょう。

とはいえ、ストリーミング配信だから映画として認めない、というのは時代の流れとしてナンセンスだし、実際『ROMA/ローマ』の映画としてのクオリティは、今回の候補作の中でズバ抜けて高レベル。むしろ、劇場公開作だったら間違いなくオスカー確実といえる出来映えです。なので、今年の作品賞は結果が出るまでまったく分わかりません。どっちに転がっても"事件"であることは確かです。

2018年最大のヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』はどうなる?

『ボヘミアン・ラプソディ』

(C) 2018 Twentieth Century Fox

作品賞ほか主要部門にノミネートされた『ボヘミアン・ラプソディ』ですが、当初は批評家からの評判が散々でした。その理由は明白です。"QUEENの伝記映画"と呼ぶには、あまりにも短い一部分の切り取りに過ぎないこと(演出のために時系列も乱れている)、物語のアンバランスさ(フレディのパーソナルなストーリーとQUEENの成功物語は別々に語られるべきなのに、うやむやになっている)、監督が途中で交代していること、そしてなにより、エンタメに偏り過ぎていること。たしかに役者の健闘は、"そっくり演技"を含めて賞賛されてしかるべきレベルですが、結局はラストの20分強のライヴ・エイドの完全コピーだけが見せ場であり、あとはQUEENの楽曲が持つ力に頼っているところは否めません。だからこそ、これは娯楽映画としては高く評価できますが、芸術的、映画技術的に優れているかと言われると微妙...。

ところが、この薄味なところがむしろ一般の観客には響き、興行的に世界で成功を収めました(特に北米と日本)。何はともあれ、知名度抜群のQUEENの楽曲をはじめ、物語はいわば「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」的な感動話のアプローチでウケているのも無理はありません。さすがに賞レースには関わらないだろう、と思われていた本作は、オスカー候補入りと全米映画俳優組合賞(以下、SAG賞)の主演男優賞をかっさらったことで風向きが変わり、SAG賞を受賞した主演のラミ・マレックへのオスカーはほぼ確実になってきました。

そのほか第91回アカデミー賞授賞式の押さえておきたいトピック

『ボヘミアン・ラプソディ』

(C) 2018 Twentieth Century Fox

昨年8月、アカデミーは「人気映画賞」部門の設立を高らかに宣言していたものの撤回、設立の延期という騒動を起こしました。今回は、興行的にも文化的にも認められた『ブラックパンサー』(2018年)があったので、スーパーヒーロー映画を主要賞に入れるためには...という苦肉の策だったんでしょう。ところが、公開から半年以上経っても『ブラックパンサー』の人気は衰えることを知らず、むしろ"名作"として評価が高まったことで、人気映画賞がなくても作品賞ほか主要部門に食い込むことができました。

でも、これだけでは浮きますよね?ということもあり、『ボヘミアン・ラプソディ』も作品賞の候補入りを果たしたのではないかと思います。作品賞ノミネートの8作品中2作品が興行的ヒット作、いわゆる"人気映画"ならば、作品プレゼンテーションの視聴率下落防止・分散もできますし、『ブラックパンサー』ならば大勢いる主要キャストをジワジワ登壇させることも可能です。『ボヘミアン・ラプソディ』ならプロデューサーのブライアン・メイ&ロジャー・テイラーによるパフォーマンスも期待できます(あいにく歌曲賞はオリジナル楽曲に限られるためノミネートされていませんが)。

日本映画の動向も気になる外国語映画賞ですが、通常この部門はカンヌ、べネチアなどの有力な国際映画祭での受賞歴が大きく影響しています。その点、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)は第71回カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を獲っているので、例年であればほぼ当確。ですが、今年はかなり厳しいです。というか無理。ずばり、『ROMA/ローマ』には敵いません。『ROMA/ローマ』が作品賞を逃したとしても、外国語映画賞は確実に受賞するでしょう...というか、この賞まであげずには帰せません!

『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督(写真左)

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

■よしひろまさみち氏の受賞予想(主要6部門)
作品賞:『グリーンブック』
監督賞:アルフォンソ・キュアロン(『ROMA/ローマ』)
主演男優賞:ラミ・マレック(『ボヘミアン・ラプソディ』)
主演女優賞:グレン・クローズ(『天才作家の妻 -40年目の真実-』)
助演男優賞:マハーシャラ・アリ(『グリーンブック』)
助演女優賞:レイチェル・ワイズ(『女王陛下のお気に入り』)

文=よしひろまさみち

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放送情報

アカデミー賞特集2019 第91回アカデミー賞 直前総予想
放送日時:2019年2月24日(日)20:00~
チャンネル:シネフィルWOWOW

生中継!第91回アカデミー賞授賞式
放送日時:2019年2月25日(月)8:30~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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