"演技ドル"という言葉が生まれていることからも分かるように、近年、役者としても才能を見せつけている多くのK-POPアイドルたち。その中でも、もはや"演技ドル"という枠組みからも抜け出し、俳優として高く評価されているのが、主演ドラマ「100日の郎君様」(2018年)が再び注目を集めているEXOのD.O.(ディオ)ことド・ギョンスだ。
■若者の感情をリアルに落とし込んだ演技で頭角を現す
EXOのメンバーがソロでの俳優活動をスタートさせた2014年。その先陣をきるように、「大丈夫、愛だ」(2014年)で俳優として歩みはじめたギョンスは、家庭に問題を抱える作家志望の高校生役を好演し、演技初挑戦ながら「2014 APAN STAR AWARDS」で新人賞を受賞。同年には、労働者の不当解雇をテーマにした社会派作品『明日へ』(2014年)でスクリーンデビューも果たし、その才能をすぐさま開花させた。
2016年の主演作『あの日、兄貴が灯した光』では、試合中の事故により視力を失い、オリンピック出場の夢が絶たれる柔道家の弟を熱演。徐々に絶望から這い上がっていく繊細な感情を見事に表現し、韓国で最も権威のある映画賞の一つ「青龍映画賞」で新人賞を受賞した。
また、繰り返し再放送されるなど日本でも人気の高いドラマ「100日の郎君様」(2018年)では、陰謀によって記憶を喪失した世子が役立たずの庶民として生活する様子をコミカルに演じ、時代劇にも関わらずどこか親近感のある姿でドラマをヒットへと導いた。
さらに映画『神と共に』シリーズ(2017、2018年)では、物語のカギを握る軍隊に順応できない一等兵を演じ、何かに常に怯えたかのような小刻みに震えた芝居や細々とした口調で心の繊細さを表現。かと思えばカン・ヒョンチョル監督作『スウィング・キッズ』(2018年)では、収容所でタップダンスに出会った捕虜が、朝鮮戦争下のイデオロギーに苛まれながらも、次第に解き放たれていく心の動きを、肉体を最大限に使って躍動感たっぷりに演じてみせた。
演技者としてのド・ギョンスは、徹底した役作りにより、様々な背景を抱える若者の感情をリアルに落とし込み、まるで憑依したかのような自然体の演技で物語に深みをもたらしてきたのだ。
■スリリングなブラックコメディで演じた貧困青年
5月29日(金)にKBS Worldにて放送される『7号室』(2017年)もまた、若者の気持ちを代弁するかのようなギョンスのナチュラル演技が堪能できる作品だ。本作は潰れかけの個室DVD店を舞台としたブラックコメディで、その一室である"7号室"を巡って、それぞれ秘密を抱えた店長とアルバイト店員が攻防を繰り広げるという内容だ。そんなスリリングな展開の中に、就職難や貧困、出稼ぎの移民に対する差別など韓国社会の底辺が抱える闇を織り交ぜた異色の作品となっている。
ギョンスが演じるのは、音楽でビッグになることを夢見ながらも、学生ローンの返済と生活のためにDVD店でのバイトに時間を追われるテジョン。生活が苦しいうえに、店は給料を支払ってくれないため、彼はいけないことだと頭では理解しながらも手っ取り早く裏稼業へ...。夢はあるものの現実の大きな壁にぶち当たるという、多くの韓国の若者が抱える苦しさを背負ったような役どころだ。
■"演技の神"を相手にしても一歩も引けを取らない熱演
そんな役柄を演じるにあたり、首にはタトゥーのメイク、だるそうにタバコを咥えるなど、これまでのイメージとは異なるどこかヤサグレた一面を披露しているギョンス。バイト中に見せる、テンション低めな表情や猫背気味の佇まいからは、世の中への鬱屈した感情が漂っている。
また、軽薄な店長を演じる名優シン・ハギュンとの演技合戦も見もの。自分の隠していることを悟られまいと本心を隠しながらも、相手を訝しみ互いに探り合う様子を、鋭くもどこかとぼけた眼差しと会話の間で表現。"演技の神"と呼ばれる名優のハギュンに対して一歩も引けをとっておらず、張り詰めた空気感を作り出している。
難易度の高いキャラクターに次々に挑戦し、俳優として着実にキャリアを切り拓いてきたギョンス。EXOのメンバーとしては、シウミンに続いて2番目に入隊し現在服務中のため、新作はまだ先になりそうだが、兵役期間を経た彼が、復帰作でどのような成長ぶりを見せてくれるのか?その姿が今から待ち遠しい。
文=HOMINIS編集部
放送情報
7号室
放送日時:2020年5月29日(金)23:15~
チャンネル:KBS World
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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