武術家にして世界的なスター!カンフーマスター、ブルース・リーの伝説をいま語り継ごう

3年に一度開催される武術トーナメントを舞台に、腕に覚えのある格闘家たちが激闘を繰り広げる(『燃えよドラゴン』)
3年に一度開催される武術トーナメントを舞台に、腕に覚えのある格闘家たちが激闘を繰り広げる(『燃えよドラゴン』)

(C) Warner Bros. Entertainment Inc.

『燃えよドラゴン』が完成したのは、1973年7月上旬。関係者を招いた完成披露試写で初めて作品を観たリーは、その完成度の高さにとても満足していたという。しかし、それから1か月足らずのうちに、大きな悲劇が訪れる。撮影が中断していた『死亡的遊戯』の撮影開始に向けた打ち合わせを進めていたのだが、リーは激しい頭痛を訴え、共演予定だった女優からもらった頭痛薬を服用。しかし、その後彼が目覚めることはなかった。念願だった世界進出の主演作である『燃えよドラゴン』の香港公開を翌週に控えた7月20日、彼は急逝してしまったのだ。

リーの死が報じられるなか、香港を皮切りに『燃えよドラゴン』は世界各地で公開され、大ヒットを記録。その影響力はすさまじく、世界的なカンフー映画ブームが到来することになる。ちなみに、マーベル・シネマティク・ユニバースの作品として公開された『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)、Netflixのドラマシリーズとして製作された「アイアンフィスト」など、カンフーヒーローもののマーベルコミックスの原作は、カンフー映画ブーム時に誕生しており、ヒーローものにも大きな影響を与えていたのがわかるだろう。

日本では、1973年12月に公開され、リーの映画が日本に初上陸することになった。この頃は「カンフー映画」というジャンルがまだなく、「空手映画」として宣伝されるが、この映画の存在によって「カンフー映画」の存在が大きく認知され、千葉真一や倉田保昭らの日本のアクションスターにより、「空手映画」からさらに踏み込んだ「和製拳法映画」が多数製作されるようになり、日本の映画界にも大きな影響を与えることになった。その一方で、これだけの衝撃を与えたカンフースターのリーが、その存在が日本に知らされた時にはすでに故人であったことは、当時のファンにも大きなショックであったことも語り継がれている。

リーの死後、彼が途中まで撮影していた『死亡的遊戯』の撮影済みフィルムを使用した『死亡遊戯』が1978年に公開されることになる。

『死亡的遊戯』は『燃えよドラゴン』の撮影に入る前に、「五重塔を上に登りながら、各階を守る武術の達人と戦う」というプロットで撮影が進められており、そこに至るまでのストーリーが固まる前にクライマックスとなるアクションシーンのみが撮影終了している状態だった。このわずかな撮影済みフィルムをもとにして、1本の映画として仕上げるために、『燃えよドラゴン』でリーと撮影を共にしたロバート・クローズが監督として参加。同じくリーと交流があったサモ・ハン・キンポーと共に共同監督を務め、ラストバトルに至るまでの物語が作られることとなった。

生前に撮られたシーンを生かす形で製作された『死亡遊戯[4Kリマスター版]』
生前に撮られたシーンを生かす形で製作された『死亡遊戯[4Kリマスター版]』

(C) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

主人公となるのは、アクション俳優のビリー・ロー(リー)。暴利を得るために有名スポーツ選手や映画俳優に終身契約を結ばせようとする組織からの誘いを受けながらも、ローは頑なに拒否。その結果、組織から命を狙われることになる。そして、新たな映画作品に取り組んでいたローは撮影中に組織によって暗殺されてしまい、香港では彼の大規模な葬儀が行われた。しかし、銃撃されたはずのローは一命を取り留めており、自身を殺そうとした組織に復讐を果たすべく、組織のアジトへと戦いに向かう。

作品はメタ的な構造となっており、劇中ではリーの実際の葬儀のシーンが使われつつも、死んだと思われたアクションスターは生きていて、過酷な戦いに挑むという物語となった。また、当初予定していた五重塔を登っていくというプロットも本編では使われなくなってしまっている。前半パートでは、リーが出演しているシーンはほかの映画から持ってきたものを編集し、演技や新たなアクションが必要なところは、そっくりさん俳優のタン・ロンやアクション俳優のユン・ワーやユン・ピョウが代役を務めることで撮影が行われた。

主演俳優が死亡しているという状況で撮られた作品であるため、1本の映画としての完成度に難があるのは仕方ないところだが、幻となってしまうだけだった撮影済みフィルムを映画として世に出せたこと、そしてリーの葬儀のシーンも記録映画的に観ることができるという意味では、決して価値が低い作品ではないだろう。

また、のちに明かされることになる、「五重塔の各階を守る武闘家と戦いながら上層を目指す」というリーが想定していたプロットは、その後少年マンガやアニメなどでもよく使われることになり、『燃えよドラゴン』の格闘トーナメントと同じく、エンタメ的な意味での世間に与えた影響は大きい。こうしたバトルシーンのアイデアは、「銃という武器が全盛の時代に、どうやって格闘だけでアクションを成立させるか?」という部分を考えた結果生まれたものであり、そのアイデアは時代を超えて継承され続けることになった。

生き様も含めて、カンフースターとしての在り方がのちのエンタメ作品に大きな影響を与えた(『死亡遊戯[4Kリマスター版]』)
生き様も含めて、カンフースターとしての在り方がのちのエンタメ作品に大きな影響を与えた(『死亡遊戯[4Kリマスター版]』)

(C) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

見せるための筋肉ではなく、格闘技のために鍛え抜かれた身体。そこから繰り出されるアスリートレベルに磨き抜かれた、目にも止まらぬ技の数々。特徴的な戦闘時の佇まいと表情。映像からもしっかりと感じることができるストイックさ。そして圧倒的なオーラを放つ存在感。彼が体現してきたリーのキャラクター性もまた、唯一無二のアイコンとして、漫画、アニメ、映画、ゲームなどのエンターテインメントに欠かせない遺伝子として組み込まれ、オリジナルに触れたことがない人たちでも、その影響下にある作品に必ず触れて来たと言っても過言ではない存在となっている。

こうして振り返ることで、ブルース・リーは、主演した作品だけでなく、エンターテインメント全般に影響を与えた人物として、歴史的な偉人と並ぶように、永遠に語り続けられるレジェンドであることが理解できるだろう。

文=石井誠

石井誠●1971年生まれ。アニメ、アメコミ、アクション、ミリタリーなどのジャンル系映画を好むホビー系映画ライター。「シネコンウォーカー」、「MOVIE WALKER PRESS」、「映画秘宝」、「月刊ニュータイプ」、「アニメージュプラス」などで執筆。著書に「安彦良和 マイ・バック・ページズ」(太田出版)などがある。

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放送情報

燃えよドラゴン
放送日時:2022年9月10日(土)16:15~、12日(月)9:00~

ドラゴン怒りの鉄拳[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月4日(日)10:00~、10日(土)12:00~

ドラゴン危機一発[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月4日(日)8:00~、10日(土)10:00~

最後のブルース・リー/ドラゴンへの道[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月10日(土)14:15~、27日(火)11:30~

死亡遊戯[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月10日(土)18:45~、21日(水)0:00~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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