宇垣美里が語る 手を差し伸べることの大切さを感じる松村北斗上白石萌音共演の「夜明けのすべて」<宇垣美里のときめくシネマ>

⒞2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
⒞2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

聴覚障害を持ちながらもプロボクサーとしてリングに立つケイコの姿を追う「ケイコ 目を澄ませて」

「ケイコ 目を澄ませて」もまた、心の動きひとつひとつを丁寧に追った、静かで温かな作品だ。

生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、日々下町の小さなボクシングジムで練習を重ね、ホテルで働きながらプロボクサーとしてリングに立つ生活を送っている。母は心配し続けており、やがて一度ボクシングを休みたい、と「一度お休みしたいです」と手紙を書くまでになるが、時を同じくしてジム会長(三浦友和)が癌を患い、ジムの閉鎖が決まったことを知る。

ノートを滑るペンの音や外を走るパトカーのサイレン、床の軋みやミットのしなる音など日常の些細な音が丁寧に拾い上げられた冒頭から、この世界はなんて音に溢れているのだろうかと改めて思い知る。

セリフで説明しなくとも、頑ななケイコの表情や彼女を見守るジム会長の眼差しから彼女の人生やここまでの道のりが浮かび上がってくるよう。淡々とした日常の描写がリアルで、言葉にならない心の揺らぎがケイコのひたむきな瞳から雄弁に語られていた。

両作品に共通するのが16ミリフィルムで撮られた光の美しさ。温度が伝わってくるかのような柔らかで温かな映像は、まるでそこに舞う埃のきらめきまでをもとらえているかのよう。ざらつきの残る映像の中に私たちと地続きの世界があるようで、たとえば駅のホームで、街角で、藤沢さんや山添くん、ケイコとすれ違ったことだってあるんじゃないかな、と思えた。

再開発の中、ジムが閉じられていくように、街は静かにその形を変えていく。同じ景色はもう二度とみられないかもしれない。思いもよらぬ瞬間に傷つき、前とは同じ自分に戻れなくなることもあるだろう。それでも、とそんな自分や世界を肯定し、一歩一歩進んでいこうと思える作品たちだ。少なくとも、弱った私にはこの映画たちがある、そう思うとちょっと元気が湧いてくる。季節の変わり目、近づく年末の慌ただしさに心を削られてしまったあなたにこそ、ぜひ。

文=宇垣美里

宇垣美里●1991年生まれ 兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサー・俳優として、ドラマ、ラジオ、雑誌、CMのほか、執筆活動も行うなど幅広く活躍中。

この記事の全ての画像を見る

放送情報【スカパー!】

夜明けのすべて
放送日時:2024年11月17日(日)21:00~

ケイコ 目を澄ませて
放送日時:2024年11月20日(水)22:50~
チャンネル:WOWOWシネマ

夜明けのすべて
放送日時:2024年11月22日(金)17:50~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物