声優・三木眞一郎と、演出家・倉本朋幸によるリーディングユニット「みきくらのかい」。その第三回公演が7月11日に東京・東村山市立中央公民館で行われた。今回の公演で三木のパートナーとなるゲストは神谷浩史。「進撃の巨人」のリヴァイ役など、代表作は枚挙にいとまがないが、三木とは前回公演のゲスト・宮野真守とともに「機動戦士ガンダム00」でガンダムマイスターの一人を演じるなど、共演作品も多い。
三木とも関係が深い劇団扉座主宰で脚本家であり演出家の横内謙介による原作『きらら浮世伝』(脚色・演出:倉本朋幸)は、史実を基にしたフィクションで、江戸時代の後期、貸し本屋を営んでいた蔦屋重三郎が、歌麿など才能を持つ芸術家を見つけ出してプロデュースし、版元として世に送り出し成功を収めていく物語。しかし、そこから御上による町人文化に対する弾圧(出版規制)が始まり、それに負けまいとする文化人たちの熱い情熱が描かれる。
真っ白な紙が全面に敷き詰められたステージ。そこに2人分の透明なテーブルと椅子が置かれている。リーディングという声をメインとした舞台で、必要なもの以外を極力削ぎ落としたようなシンプルなステージ作りに、三木の思いが込められている。
真っ黒な衣装を着た2人がステージに姿を現し、椅子に腰を下ろす。三木が凛としたよく通る声で「きらら浮世伝」とタイトルを読み上げると、そこから流れるように物語が始まった。冒頭は神谷が演じる主人公・蔦屋重三郎(重三)と、三木が演じる人気作家の恋川春町の軽妙なやりとりがしばらく続くが、この掛け合いだけで重三と春町の人物像が浮かび上がってくる。話し方、語尾の微妙なニュアンスで、どんな性格なのか、どんな体格なのか、そしてどんな顔をしているのかまでが想像でき、物語へと引き込まれていく。
話が進むにつれて登場人物がどんどんと増えていくが、話し方や声色を変化させながら、たった2人でそれらを見事に演じていく。ナレーションからセリフへの切り替えが瞬時にできるのも、声優として培ってきたスキルの一つなのだろう。状況を説明するナレーションがあり、誰かがしゃべる時は、その前に名前をそっと言ってからセリフに入る。それが驚くほど自然で、その切り替えを2人でテンポよく入れ代わり立ち代わりするため、観客は2人が生み出す世界観に没頭していった。
重三の成り上がりの物語と並行して、吉原遊郭に売られてきた少女・お篠と重三の切ない愛の物語も展開。その2つの軸は後半徐々に絡み合っていくのだが、お篠を演じた三木の表現力がすさまじい。途中、重三が歌麿の才能を開花させるために自分を慕い続けてくれていたお篠を買い、歌麿にあてがうシーンの彼女の決意とそこからの苦悩は観客の胸を打った。
その後、重三の夢は形になり、日本橋に店を構えて絵を出版するまでになるが、同時に御上の締め付けも厳しくなっていく。圧巻だったのは春町の切腹からの流れだ。「お前たちは自分のためだけに命を使えよ」という春町の最期の叫びの迫力、その後の重三とお篠の切ないやりとり、吉原の町中の文化人を奮い立たせた重三の力強い演説と言葉、そして文化人のすごさを御上に思い知らせるために生まれた写楽という存在。ここからラストの重三とお篠の結末まで息つく暇もなく、観客は2人の魂のこもった演技に圧倒されながら物語の行く末を見守った。
三木が描いた写楽の文字が大きく掲げられたり、下に敷かれた白い紙をつかみ破り捨てていくという演出はあったものの、2人の動きで見せる演出はそう多くはない。それよりも、それぞれが男女の役柄を演じて1人で掛け合いをするなど、芝居を聴かせるところが多かった。素晴らしい音楽や照明もシーンを盛り上げる見事なアシストをしていたが、やはり中心にあったのは2人の芝居だ。登場人物の絵もなければ、吉原の風景も実際には見えない。それでも人物の表情が、街の景色が鮮やかに浮かび上がってくる、声優の演技の迫力や繊細さ、声や言葉の可能性を感じることができる公演となった。
文=塚越淳一
配信情報
みきくらのかい 第三回公演リーディング「きらら浮世伝」
原作:横内謙介 脚色・演出:倉本朋幸 編集:中瀬俊介
出演:三木眞一郎、神谷浩史
配信期間:2021年9月10日(金)からを予定しております。
<ドキュメントブック情報>
三木眞一郎さんと神谷浩史さん、お2人のインタビューを収録。舞台写真も多数掲載!
予約販売期間:2021年8月1日(日)12:00〜10月10日(日)23:59
詳しくは「みきくら」公式HP
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