山田裕貴が脇役で見せる存在感を、清野菜名松坂桃李のW主演映画「耳をすませば」で再確認

(c)柊あおい/集英社 (c)2022『耳をすませば』製作委員会

杉村は、明るくユーモアに富んで、少し鈍感な部分もあるが、いるだけで場を和ませてくれる存在。中学時代に夕子から思いを寄せられるも、当時は雫のことが好きだったという過去を経て、現在は夕子との結婚を控えている。登場シーンは少ないのだが、物語においてとても重要な役割を担っている。というのも、雫は仕事がうまくいかず、制作した作品をコンクールに出しても落選し、「掴めない夢を追い続けていて良いのか」と葛藤している一方で、 結婚を控えて明るい未来に向けて楽しげに生きている夕子と杉村が"対比の存在"として描かれているからだ。仕事や恋に落ち込む雫を慰め、背中を押し、時に無意識に能天気な態度で接するなど、夕子と杉村がより幸せそうに映ることで
雫とのコントラストが強まり、「夢を追い続けることの大変さ」のメッセージ性も強くなる。

そんな重要な役割を、山田は明るく気のいい青年として杉村を演じながら、しっかりとした存在感を出して果たしている。明るく、のん気な雰囲気と、場を和ませる声のトーンやセリフ回し、雫と夕子との会話などを通して、幼なじみらしい積年の深い関係性をも表現。とぼけた発言で夕子に頭を叩かれる場面では、丁々発止のやり取りでコミカルさを作品に注入している。さまざまな役柄を演じている山田だが、「杉村が一番本人のキャラクターに似ているのでは?」と思うほど、"カメレオン俳優"のDNAもしっかりと感じさせてくれることもここで付け加えておきたい。

そんな中で特筆すべきは、"このクオリティを、少ない出演シーンで完璧にこなしていること"だろう。舞台裏まで想像を働かせるのは野暮ではあるが、杉村が登場するシーンは雫の自宅のシーンのみで、同じセットでのシーンは同日に一気に撮影することが通例であるため、杉村の登場シーンを1日で撮影したのであれば、登場人物同士の距離感や関係性などは、役者自身の役作りに任せるしかない。
つまり、山田は、杉村の性格や3人でいる時のポジション、中学時代の雫への気持ち、描かれていない10年間の夕子との関係などを、観る者に想像させる芝居をしなければならないのだ。このバックボーンが想像できないと、説得力のないシーンになってしまうが、山田の演技はその及第点を遥かに超えて、作品における杉村の役割を全うしつつ、役者としての存在感をも感じさせてくれる。

W主演の清野と松坂の切なさともどかしさの中で互いを求め合う様子が繊細に表されるすばらしい演技と共に、脇役でありながら小さくない存在感で小さくない役割を果たしている山田の演技にも注目してみてほしい。

文=原田健

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放送情報

耳をすませば(2022)
放送日時:2023年4月23日(日)12:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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