2022年公開の映画「もっと超越した所へ。」は、劇作家の根本宗子が手がけた2015年上演の同名舞台を、根本が自ら脚本を担当して映画化した作品だ。月刊「根本宗子」というユニークな名称の劇団を主宰する根本は、岸田國士戯曲賞の最終候補作に4度ノミネートされた実力者。名実ともに、日本の演劇界をリードする若手劇作家である。
本作は、「映像化不可能」とも言われた舞台を映画化したもので、ダメ男を引き寄せる4人の女たちの恋愛模様をリアルに描いた群像劇だ。デザイナーの岡崎真知子(前田敦子)は、自称ミュージシャンの朝井怜人(菊池風磨)と半ば強引に同棲する羽目になる。子役出身のバラエティタレント・櫻井鈴(趣里)は、「あざとかわいい男子」の星川富(千葉雄大)と一緒に暮らし、金髪ギャルの安西美和(伊藤万理華)は、ハイテンションなフリーターの万城目泰造(オカモトレイジ)と付き合っていた。シングルマザーの風俗嬢・北川七瀬(黒川芽以)は、売れない俳優の常連客・飯島慎太郎(三浦貴大)の自分への思いに気づき、客と風俗嬢という関係を超えて意識していた。
4人の女性たちは、それぞれの相手に不満を抱きながらも幸せを感じていた。ところが、彼らは女たちの優しさにそれぞれが増長し、身勝手な行動ばかりを繰り返す始末。女性の気持ちを露ほども理解しないくず男たちに傷ついた彼女たちは、ある日ついにブチぎれてしまう...。
まず、4人の男たちのダメっぷりが見事である。全員が正直まったく共感できないダメな男なのだが、なんとなく憎めない。菊池演じる怜人など、動画配信をしてはいるものの実質収入ゼロで完全なヒモ男なのだが、どことなくかわいらしいのだ。泰造にしてもどうみても能天気で気弱な無責任であり、「絶対に付き合ってはいけない男」のオーラを全身から醸し出しているのに、なんとも愛嬌がある。このあたりは、演じる俳優たち自身の魅力を演出がうまく引き出していると言えるのかもしれない。もし怜人を菊池以外の俳優が演じたら、不快に感じてしまうだろう。OKAMOTO'Sのドラマーであるオカモトは、もともと子役だっただけに演技も達者で、独特の存在感を放っている。千葉はこの手の役柄がもともと得意な印象はあったが、本作においては女性を傷つけてしまう無神経さをうまく演じていた。三浦にいたっては、プライドだけが高い惨めさを哀愁を漂わせて表現しているが、彼も大いに俳優として成長している感がある。
放送情報
もっと超越した所へ。
放送日時:2023年6月24日(金)7:25~
放送チャンネル:WOWOWシネマ
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