物語の当初、瞳は新人監督らしく、さまざまな苦難にぶち当たる。演出の"輝き"を変更する時に「何%ですか?」と聞かれて目を丸くしたり、会議では遠慮がちな印象だったり...。本作での吉岡はメガネをかけ、髪は少しバラつくラフなスタイルで、アニメ制作の現場で苦労を重ねている雰囲気がよく出ている。
真剣に臨んだアフレコでは、瞳の厳しい指示で声優さんが逃げてしまい、やるせなさそうな表情を見せたりもする。しかしその直後、プロデューサーの行城理(柄本佑)に「無名監督のあなたは王子千晴に勝てません」と言われ、芯の強さが滲み出る表情に変わるところは、さすがの演技力と言えるだろう。
そして中盤の見せ場、ライバルとなった瞳と王子がアニメフェスで対談するシーンがやってくる。壇上に立った瞳の呼吸は荒く、話しながら噛んだりするなど、緊張しているのが手に取るようにわかる。
一方の王子は落ち着いていて、言葉に詰まった瞳に助け舟を出したりする。王子は司会者に対して挑戦的な態度を取ったりもするが、作品紹介後にかなりインパクトのある演説を打つ。その時の、自虐的なコメントと共に、自嘲的に薄く笑う表情は印象的だ。
そんな余裕たっぷりの王子との言葉の応酬の後に、瞳は「私、負けません!」「覇権を取ります!」と宣戦布告。その時の迫力と目力から、瞳が自分の作品にかける熱い気持ちが伝わってくるのは、吉岡が新人監督・斎藤瞳の思いをしっかり体現しているからだろう。
戦いが始まった。口は悪いが的確に作品をプロデュースする行城をはじめ、スタッフと力を合わせて作業を進めていく瞳。1人で部屋にこもり、プレッシャーと戦いながら絵コンテを仕上げていく王子。作り方は違えど、両者が苦悩しながら作品を良いものに仕上げようと奮闘する姿には、多くの人が心を揺さぶられるに違いない。
吉岡と中村の演技も秀逸で、録音スタジオで王子と再会した瞳が作品を褒められて泣きそうになるシーンや、王子がプロデューサーに「納得できないものを世に出したらおしまいなんだよ」と強いこだわりを見せるシーンなど、その演技力に圧倒される場面が数多くある。
瞳と王子が心血を注いで作り上げたアニメは視聴者の心に届くのか。覇権を取るのはどちらの作品なのか。吉岡と中村の演技はもちろん、熱い思いを持って制作に携わる人々の姿は、きっとあなたの胸に刺さることだろう。
文=堀慎二郎
放送情報
ハケンアニメ!
放送日時:2023年8月31日(木)10:45~
チャンネル:WOWOW4K
放送日時:2023年9月26日(火)10:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
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