月組トップスター・月城かなとが闇の中での輝きを見せた宝塚歌劇「グレート・ギャツビー」

鳳月杏
鳳月杏

-F・スコット・フィッツジェラルド作"The Great Gatsby"より-©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

デイジーの親類であり、トムの学友でもあるニック(風間柚乃)。原作では語り手として登場するニックは、読者の側に近い「普通の人」だ。それだけに、観客もいつしかニックに自分を重ね、ニック目線で物語を眺めてしまう。

プロゴルファーのジョーダン(彩みちる)は自立した女性で、デイジーとは好対照。理性で動くジョーダンと情の人ニックが、もう1組のカップルとして物語を彩っている。

マートル(天紫珠李)には、女としての自信がみなぎっており、トムが興味を持つのもわかる。マートルの夫であり、ギャツビーの運命を狂わせる男、ウィルソン(光月るう)は、生気のなさの奥底から狂気が垣間見えるようだ。
 
ギャツビーの「育ての親」マイヤー・ウルフシェイム(輝月ゆうま)は、酸いも甘いも噛み分ける裏社会の元締めとして存在感を醸し出す。だが、最後の最後にすべてを持っていくのはギャツビーの父、ヘンリー・C・ギャッツ(英真なおき)である。

フィッツジェラルドが描く風景の忠実な再現に、原作への思い入れを感じる。たとえば、ギャツビーが見つめる緑色の灯火、「灰の谷」に掲げられている「ドクター・エクルバーグの眼」の巨大な広告などだ。物語の鍵を握る、黄色と青の2台の車も舞台上にさっそうと登場する。
 
逆に、原作から膨らませた部分にはタカラヅカらしい見どころがある。たとえば、豪華なレビューシーン。禁酒法時代のもぐり酒場の場面はスーツ姿の男役たちの見せ場である。ギャツビーとトムのゴルフ対決をダンスで見せる趣向も楽しい。

ギャツビーの短い人生には「狂騒の20年代」と呼ばれる特異な時代が生み出す光と闇が凝縮されている。原作の救いのなさ、やるせなさの中に残されたひとかけらの夢と希望。だが、それがタカラヅカの「グレード・ギャツビー」の味わいだ。

文=中本千晶

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放送情報

グレート・ギャツビー('22年月組・東京・千秋楽)
放送日時: 2023年9月3日(日)21:00~ほか
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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