この二人とは対照的な関係で作品に陰影をつけるのが、バックとブランチのカップルだ。生きたいように生き、燃えるように愛し合ったボニー&クライドのシンプルな関係と違い、この二人の関係は一筋縄ではいかない。
クライドの兄バックは相容れない二つの面を併せ持った人物として描かれる。妻ブランチを大切に思う心優しい男性だが、弟のような破天荒な生き方への憧れも捨てきれない、そんな引き裂かれた内面の持ち主を、和希そらが的確に演じてみせる。
野々花ひまりのブランチは、タカラヅカ的な夢々しさを消し去り「普通の女性」になり切っていたのが見事だった。神を信じ、手に職をつけて真面目に生きている。一番「まともな常識」の持ち主が全く報われないのが虚しい。
この他、咲城けい演じるテッドが、恋と職務との間で悩む保安官を好演。杏野このみ演じるエマ・パーカーは、盲目的に娘ボニーを愛するだけではない気丈さが胸に迫る。久城あすの牧師は、神の恩寵をひたすら笑顔で歌い続ける姿が不気味にさえ感じられた。
ワイルドホーンの楽曲がやはり耳に残る。フィナーレで「凍てついた明日」の名曲「Blues Requiem(ブルースレクイエム)」を聴くことができるのも嬉しい。
この作品ではボニーとクライドを取り巻く世相...不景気と社会不安、人々の閉塞感、車社会の到来による激変、警察の無力さなども丁寧に描かれている。その世相が現代と似ているから、余計に二人に共感し、憧れさえ抱いてしまうのかもしれない。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
BONNIE & CLYDE ('23年雪組・御園座)
放送日時:3月3日(日) 21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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