月組トップスター・月城かなと演じる菅原道真の成長譚「応天の門」

海乃美月
海乃美月

原作/灰原 薬「応天の門」(新潮社バンチコミックス刊)⒞宝塚歌劇団  ⒞宝塚クリエイティブアーツ

主人公の菅原道真を演じるのは、月組トップスターの月城かなと。端正な美貌と確かな演技力に定評のある男役である。残念ながら、本年3月〜7月に上演される「Eternal Voice 消え残る想い」「Grande TAKARAZUKA 110!」での退団が決まっている。
 
その月城が、若き日の道真の成長譚に挑む。天才的な学問の才を持ちながらも権力には興味なし、権力者に媚びへつらう人も大嫌い。だが観客は、彼がただのひねくれた少年で終わらないことを知っている。この道真が後に権力の頂点に登り詰め、憧れていたはずの遣唐使を廃止し、太宰府に左遷されるのである。斬新なエピローグは、その後の道真の栄達と転落を暗示しているようにも思える。月城かなとが演じる道真は、そんな未来までも想像させる。

そこに絡むのが、姉御のような昭姫(海乃美月)、兄貴のような在原業平(鳳月杏)、そして後に宿敵となる藤原基経(風間柚乃)だ。3人がそれぞれ別の役割で、道真の成長譚に一役買っていくことになる。
 
唐からやってきて広い世界を知る昭姫は、包容力を感じさせる女性だ。気は強いが面倒見が良く、難題の解決に力を貸すさまが小気味良い。この役を演じるトップ娘役の海乃も、月城と共に退団することが決まっている。
 
色恋の経験豊富で、酸いも甘いも噛み分ける在原業平は、まだ青臭い道真とは対照的な男性だ。権力闘争の中での業平の「大人の判断」を道真は受け入れることができず、いったんは袂を分かつが、最後には受け入れ、業平もまた道真によって変わっていく。
 
また、ただの悪役ではない、葛藤の末に自分を殺して権力に殉じる存在として描かれるのが藤原基経だ。結末、朝議の場に現れた道真と基経が対峙する瞬間、今後を予感させる緊迫感が漂う。

漫画を読んでから舞台を見ると、そのビジュアルが絶妙に再現されていることに驚かされる。また、道真が作った漢詩など古典の一節が至るところで引用されていることも、この作品を奥深いものにしている。これらの古典を参照してから観劇すると、いっそう趣深いものになるだろう。

文=中本千晶

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放送情報【スカパー!】

応天の門(’23年月組・東京・千秋楽)
放送日時:4月7日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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