渡辺あやの「脚本の妙」が光る!松田龍平演じる芥川龍之介と、耳の聞こえない美しい青年の関係性にも魅了されるNHKドラマ「ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜」の秀逸さ

同じく上海を舞台とした芥川の短編「アグニの神」などの小説世界と、当時の中国の現実を絶妙に交錯させながら、若き芥川が憧れた異国の地でのカオスな体験談が展開。バーで花を売る女性に同情し一輪のバラを買ったかと思えば、次の瞬間には女性の強欲な商売に辟易するなど、芥川の感情の起伏が鮮烈に映し出されていく。

新聞社特派員として現地の人々にインタビューをして回る芥川。革命家の家を訪れたシーンでは、ペラペラのスーツで来てしまい寒そうに咳き込むも、禁欲的な生活を送る相手の手前、「ストーブに火をくべてほしい」とは言い出せない芥川の心情を入れ込むなど、ディテール豊かな描写から、その繊細さを表現。複雑な構成ながら、巧みな渡辺脚本によって、上海に当惑する芥川の人物像がくっきりと浮かび上がっている。

芥川を演じた松田龍平は、淡々とした語り口でどこか浮世離れした彼の雰囲気をナチュラルに体現しており、その自然体な佇まいは時折、芥川本人とシンクロして見えるほどハマり役。劇中には、愛人・秀しげ子(中村ゆり)の来訪を奈緒演じる妻・文に対応させるという、日本にいた時の回想シーンも登場するのだが、廊下の奥からその様子をハラハラしながら見守る心細そうな表情も印象深い。男の情けない一面を表現し、物語にリアリティをもたらしている。

松田と、芥川に上海を案内する村田役の岡部たかし以外、上海ロケに参加した出演者のほとんどは中国人。中国共産党の設立に関わった李人傑こと李漢俊を演じた金世佳ら、実力派の中国人俳優が実在の人物を演じている中で、物語のキーパーソンとなる耳の聞こえない美しい青年・ルール―を演じた薛薛(中国の映画大学生でこれがデビュー作)の存在感が異彩を放っている。

妓楼に暮らす彼が読み書きできることに気づいた芥川は、彼に書物を買い与え、筆談を通じて気持ちを交流させるように。聡明で美しいルール―に魅了される芥川の高揚した表情も実に鮮やか。こうした芥川の思想に多大な影響を与えた、上海での様々な出会いや体験がまざまざと映し出されていく。

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放送情報【スカパー!】

ストレンジャー~上海の芥川龍之介~
放送日時:2024年7月20日(土)9:30~
チャンネル:チャンネル銀河 歴史ドラマ・サスペンス・日本のうた
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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