前雪組トップコンビ・望海風斗真彩希帆がサヨナラ公演「シルクロード~盗賊と宝石~」で見せた信頼からくる演技

雪組トップコンビ、望海風斗・真彩希帆のサヨナラ公演であったレビュー・アラベスク「シルクロード ~盗賊と宝石~」には根底にストーリーが流れている。そのストーリーと、背後に潜む作者・生田大和の独特の世界観に浸るのが、この作品の正しい味わい方のような気がする。

幕開き、巨大な砂時計が舞台背後に現れる。「砂」はこの作品の中の重要なアイテムだ。「この世界を構成する最小単位であり、とるに足らない存在。だが実は、人の一生より遥かに長い時間が存在し、時代の移り変わりを眺め続けている存在」、この作品で描かれるのは、そんな「砂」から見た世界だ。

「始まりとは終わりだが、終わりはまた始まり」、この作品における「時間」は、過去から未来へと直線的に進むのではなく、円環のように回り続けている。

第2章はそれを象徴する場面である。当時、次期トップコンビとなることが発表されていた彩風咲奈と朝月希和の二人が、遠い昔の恋人たちに扮する。それは過去であると同時に、これからやってくる希望に満ちた未来でもあるのだ。あるいは、彩凪翔率いる本公演での退団者たちが、シルクロードを旅し続けるキャラバン隊を演じることにも意味を感じる。タカラヅカという世界からは彼らは去ってしまうけれど、終わりはまた始まりでもある。つまり、退団者たちにこれから始まる未来を祝福する思いも込められているのではないだろうか。

こうして永遠に循環し続ける時間にただ1人抗い続けるのが、トップスター・望海風斗扮する「盗賊」である。彼だけは望むものを手に入れるべく前へ前へと貪欲に進もうとする、血の通った人間的な存在だ。盗賊が望むもの、それがトップ娘役・真彩希帆が扮する「ホープダイヤモンド」だ。彼(盗賊)と彼女(ホープダイヤモンド)との関係は場面ごとに変わっていく。ホープダイヤモンドは盗賊に「この世は全て物語にすぎない」とも教えるが(第3章)、最後にホープダイヤモンドの絶望を希望に変えるのは、他ならぬ盗賊である(第6章)。場面ごとにめくるめく変化を見せつつ、「盗賊と宝石」の物語として筋を通してみせる。このトップコンビの実力とキャリア、そして信頼関係の成せる技だ。

第5章でかつて望海が「BUND/NEON 上海」(2010年)で演じた劉衛強が再び登場するのも、この作品の見どころだ。「BUND/NEON 上海」は生田のバウホール公演デビュー作でもある。望海と生田、二人の強い思い入れが交錯した結果、再び降臨したキャラクターというわけだ。だが、「シルクロード」で蘇った劉衛強は成長していて、たくましくしなやかだ。真彩が歌うラップからも生き生きとしたパワーが伝わってくる。

フィナーレの黒燕尾で望海は一本の青い薔薇を持って踊る。「不可能を可能にする」「夢が叶う」といった意味を持つ青い薔薇。これは、俗な宝石などよりももっと価値のある、ほんとうに大切なものを最後に手にした、ということのように見える。

文=中本千晶

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放送情報【スカパー!】

シルクロード~盗賊と宝石~(’21年雪組・宝塚)
放送日時:8月11日(日)22:45~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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