――新次という役を演じるにあたって、どんな気持ちで取り組まれていましたか?
「監督が紡いだ新次をベースにする一方、彼は隣に住んでいそうな人でもあるし、理解ができない人間ではないので、作品が壊れない程度の『俗の世界で生きている人間』をどこまで描けるだろうか、と思っていました。俗物的なお芝居って、きっといろんなやり方があると思のですが、監督の作品はそれを出しすぎたら台無しになりますし、でも出さないと伝わりづらいですし、芝居をもってどう(その塩梅を)表現していくのか...。そこで俗物的なものを『雰囲気』や『目に見えないもの』で出していくやり方で作っていきました」
――「それ」が現れることで新次の気持ちも揺れ動きます。あのシーンも名場面だと思いますが、どう演じ分けたのでしょうか?
「同じ顔だけど、まとっているものが違う『それ』と対比をするために、(新次を演じる場合は)芝居というよりも、いかに純度の部分を濁していくか、というアプローチをしていて、逆に『それ』を演じる際は、姿が見えなくなってしまうんじゃないか、というほどの高い純度を身にまとって芝居ができたらと思っていました」
――裕福な家庭に育ち、妻と子供がいる新次と、同じ顔ながらまったく違う人生を歩んできたクローンの「それ」とは違いがあって当然ですもんね。
「そうですね。いくら細胞が同じだからといって、育った環境や、何を食べてきたのか、誰と話してきたのか、何と出会うのかで、いろいろと変わってくると思うんですよ。新次の過去は描かれますが、『それ』についてはほとんど描かれていません。無垢な『それ』が、説明せずとも『丁寧に育てられてきたんだろうな』という背景が見えるものになっていけたらいいな、と思っていました」
――「それ」と出会ったことで、新次は「それ」にのめりこんでいきます。井浦さんは、新次の気持ちに共感はできましたか?
「そうですね。自分と同じ顔である『それ』を見たときに、もちろん驚いたと思うんですが、ひとつの生命体として尊敬する部分があったり、惹かれるものがあったりしたんだろうなと思います。あと、『それ』が『とても美しいもの』に見えたのではないでしょうか。当時、新次はどこかで感動や人への敬意などの感情を見失っていたけど、『それ』と出会い、対話することによって、人間としての尊厳を取り戻そうとしたのかもしれない、と思います」
取材・文=浜瀬将樹 撮影=MISUMI
映画情報
映画「徒花-ADABANA-」
2024年10月18日(金) 公開
監督:甲斐さやか
出演者:井浦新、水原希子、三浦透子、斉藤由貴、永瀬正敏ほか
詳しくはこちら