松田優作出演の『蘇える金狼』『野獣死すべし』は、アクションスターとしての輝きと、ハリウッドへ舵を切る瞬間を記録した記念碑的作品

『野獣死すべし』
『野獣死すべし』

(C)KADOKAWA 1980

『蘇える金狼』の成功を受け、続けて村川とのコンビで大藪春彦の『野獣死すべし』の映画化が決定する。同時期に主演したテレビドラマ「探偵物語」(1979年)も好評だったことから、誰もが『蘇える金狼』のような屈強でスタイリッシュ、ユーモアのある松田を期待していた。

ところが、イメージの固定化を嫌った松田は、主人公・伊達邦彦のキャラクターを原作から大幅に改変。これまで演じてきた屈強なダークヒーローではなく、体重を8キロ落とし、歯を4本抜くすさまじい役作りで、青白い顔と猫背で歩く幽霊のような人物として作り上げてしまった。

その特異なキャラクターを前面に押し出した分、ストーリーはいたってシンプルで、元戦場カメラマンの伊達が、狂犬のような男・真田(鹿賀丈史)を仲間に加え、入念に計画した銀行強盗を実行する...というもの。せりふは少なく、松田がまともにせりふをしゃべるのは、開始から20分以上経ったあと。と思えば、苦悩の末に恋人を射殺した真田に語り掛ける場面をはじめ、ここぞというところで陶酔したように長せりふを繰り出すなど、迫真の演技で圧倒的な存在感を示した。

だが、改めて振り返ってみると、『野獣死すべし』の強烈な演技は、『蘇える金狼』ラストシーンの延長線上にあることがよくわかる。そしてこれが松田にとって大きな転換点となり、以後「最も波長の合う監督」とまで語っていた村川とのコンビを解消。やがてハードボイルド路線にも別れを告げ、文芸作品へと軸足を移し、演技派俳優に転向していく。最終的には、ここまで磨き上げたアクションのスキルと、その後の演技派路線が一体となり9年後、『ブラック・レイン』でのハリウッド進出に結実。すなわちこの2本は、アクションスターとしての輝きとハリウッドに向けて舵を切る瞬間を記録した松田優作の記念碑なのだ。

文=井上健一

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放送情報【スカパー!】

蘇える金狼(1979)
放送日時: 11月6日(水)18:30~
野獣死すべし(1980)
放送日時: 11月6日(水)21:00~
チャンネル: WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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