■生活を覗き見している気分にさせるような池松壮亮の説得力
慎二は色々な事象に過剰に不安を覚えてしまうが、その癖はお喋りとなって現れる。TPOをわきまえずに喋ってしまうその癖を周りからは五月蝿いと言われるが、美香には「喋っていないと不安なんだね」といわれた。このたった一言の肯定が慎二を少しずつ変えていく。
慎二は決して変ではない。ただ悪癖としてのお喋りがあるだけで毎日を生き抜こうとする何処かにいる人間なのだ。池松はそれを体現する。池松の芝居には大きな喜怒哀楽はなく、かといって淡々としているわけでもない。お喋りな慎二が喋らないときは目で語り、喋るときは視聴者が不安になるくらいのお喋りをみせる。その余分な要素がない池松の芝居は等身大の慎二で、作中に生きているようにみえるのだ。だからこそ最後に美香がみせる涙と2人の笑顔が、実際生きている我々がそのシーンを街中で目撃したかのような説得力があるのだろう。
生きている中で何かの壁に当たらない人はいないだろう。きっと慎二は誰かではなく、皆なのだ。これまで池松壮亮の芝居をみて一部分でも刺さる場所があるかもしれないと思ったあなたは鑑賞しない手はない。
文=田中諒
放送情報【スカパー!】
夜空はいつでも最高密度の青色だ
放送日時:11月9日(土)03:00~
放送チャンネル:WOWOW ライブ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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