【タカラヅカ】専科・轟悠が異色のコメディに挑む「神家の七人」

「神家(こうや)の七人」は「専科公演」と銘打たれた珍しい作品だ。「専科」とは、花・月・雪・星・宙の5組とは別に存在し、芝居や歌などに長けたベテランが所属している。通常、宝塚歌劇の公演は「組」単位で上演されるが、専科のメンバーは組を超えて出演することができ、作品の中で重要な役どころを演じることが多い。だが、この公演は轟悠(とどろきゆう)を中心とした専科メンバーに、月組の若手が加わって行われた。作・演出は齋藤吉正で、個性豊かな出演者たちに合わせて書き下ろしたミュージカル・コメディである。

物語の舞台は第二次世界大戦直後のアメリカ。イヴァン・ターナー(轟悠)はマフィア一家の御曹司だが、とてもそうとは思えない心優しい青年だ。戦争で疲れ果てて故郷ボルチモアに帰ってきたイヴァンは、これからは神の道に殉じると宣言する。父の代からの幹部たちは嫌々ながらも祭服に身を包み、御曹司と共に教会で神の道を目指すことになる。しかし、納得できないのは、死後もこの世をさまようイヴァンの父、ウィリアム・ターナー(華形ひかる)。自分が苦労して一代で築き上げたマフィア組織を息子が潰してしまうことが我慢ならないウィリアムは、イヴァンに乗り移って邪魔をしようとする。善良だったはずのイヴァンは突然人が変わったようになり、手下の幹部たちは大混乱に陥る。

主演の轟悠は、1997年から2001年まで雪組のトップスターを務めた後に専科に移籍した。2018年にも再演される「凱旋門」(2000年初演)のラヴィック役では芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞している。「エリザベート」(1996年初演)のルイジ・ルキーニ役に代表されるような、男の色気を漂わせる色濃い役に定評があるが、一方で「再会」(1999年初演)のジェラールのような明るくコミカルな役も魅力的だ。「神家の七人」のイヴァンはそんな轟の真逆の持ち味を両方堪能できる役どころである。素顔の純朴なイヴァンと、かつてマフィアのボスとして鳴らした父親が乗り移ったときのイヴァンのギャップが見どころだ。轟より下級生ながら父親役を演じる華形との、アドリブ満載の掛け合いも楽しい。

気が短くてケンカっ早いアルフ・ブラウン(一樹千尋)、酒と女に目がないハリー・スミス(悠真倫)、そして筆頭幹部なのに「じつはネコ好き」という素顔をひた隠しにしているクライド・モリス(汝鳥伶)。イヴァンを幼い頃から支えてきた幹部たちは一見スーツをダンディーに着こなす強面だが、どこかヌケていておかしい。

日頃の公演では、主人公と敵対する悪役や主人公の父親役といった重い役どころを演じることが多い専科メンバーが、コミカルなキャラクターを楽しそうに演じているのもこの作品ならではだ。また、ベテランメンバーに混じっての月組の演技派な若手の奮闘ぶりも見どころだ。春海ゆう、蒼瀬侑季、周旺真広の3名がマフィアの幹部に加わる。また、戦地でイヴァンが出会い、想いを寄せる女性ロビンを早乙女わかばが演じ、この作品唯一の娘役として花を添える。いぶし銀のような専科メンバーのチームワーク、そして日頃の公演ではなかなか見られない意外な素顔が見られる貴重な一作である。

文=中本千晶


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放送情報

『神家の七人』('17年専科・バウ)

放送日時:2018年6月10日(日)21:00~

チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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