宝塚男役の道を極め続けた専科・轟悠が挑んだ不朽の名作

轟悠
轟悠

「大きな鼻」がトレードマークの『シラノ・ド・ベルジュラック』が宝塚の舞台にも登場。主人公シラノに、専科の轟悠が特殊メイクの鼻をつけて挑んだ。

原作はエドモン・ロスタンによる戯曲であり、今でも世界中で舞台化され続けている。宝塚版で脚本・演出を手がけた大野拓史は、明るい笑いと華やかさを随所に取り込みつつも、大筋は戯曲に忠実に人間味あふれる舞台に仕上げている。この舞台が10月、タカラヅカ・スカイ・ステージで放送される。

シラノ(轟悠)は従妹のロクサアヌ(小桜ほのか)を密かに愛していたが、大きな鼻に対するコンプレックスゆえに想いを告げることができずにいる。ところが、ロクサアヌからクリスチャン(瀬央ゆりあ)という男性に恋していると打ち明けられ、さらにクリスチャンもまたロクサアヌを想っていることがわかる。

このクリスチャン、シラノとはまったく逆で、容姿には恵まれているのに文才はない男だった。心ならずも恋の仲介役を引き受けることになったシラノが、クリスチャンに成り代わって手紙を書いたことから、3人の恋は思いがけない方向に展開していく。

『シラノ・ド・ベルジュラック』より
『シラノ・ド・ベルジュラック』より

(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

主人公シラノを演じる轟悠は1985年入団。同期の愛華みれ・真琴つばさ・轟悠・稔幸がそれぞれ花組・月組・雪組・星組のトップスターとなったことで知られる71期生である。

入団後は月組に配属されたが、1988年に雪組に組替えとなり、1997年にトップスターとなった。2002年にはさらに専科に異動して男役の道を極め続けたが、本年10月1日付での退団を発表。その男役道にも終止符が打たれることとなった。

常にストイックに役と向き合って作り上げてきたのは、男の色気と繊細さを併せ持った男性像だ。『エリザベート』のルキーニ、『凱旋門』のラヴィック、『黎明の風』の白洲次郎など、忘れ難い役は枚挙にいとまがない。

また、専科時代には『おかしな二人』などのコメディや、『For the people --リンカーン 自由を求めた男--』のリンカーン、『チェ・ゲバラ』のゲバラなど、小劇場作品でタカラヅカの枠を打ち破るユニークな役にも挑戦してきた。『シラノ・ド・ベルジュラック』はその集大成と言って良いだろう。

武勇にも詩才にも優れ、愛と友情のために自己犠牲を厭わないシラノは一見「鼻」以外は非の打ちどころのない人物のように見える。たが、拭いきれないコンプレックスと、ロクサアヌへの執着はシラノをも苦しめる。轟は、自由奔放な生き様の中に人間らしい「業」が見え隠れするシラノを演じてみせた。

瀬央ゆりあ演じるクリスチャンは「この人の恋が実らないわけがない」と思わせる華やかさだ。少々不器用で喧嘩っ早いところなどにも持ち味が生きている。ロクサアヌは一見、何故それほどモテるのかよくわからない女性にも見えてしまうが、小桜ほのかが愛らしく好感度の高いヒロイン像を作り上げていた。

天寿光希演じるド・ギッシュ伯爵。この物語の中では敵役だが、惜しげもなく振り撒かれる悪の色香に魅了されずにはいられない。

基本は原作に忠実ながら、宝塚らしい工夫も要所要所に見られる。エプロン姿も決まったチャーミングな菓子職人ラグノオ(極美慎)の店の場面は、居並ぶスイーツの小道具も可愛らしく楽しい。シラノやクリスチャンが所属するガスコン青年隊の、三十年戦争の激戦地アラスでの戦いぶりは男役の見せ場である。

宝塚がここまで原作に忠実な『シラノ・ド・ベルジュラック』を上演できるまでに進化したことには感慨深いものがある。「男役の顔」として長年宝塚を支えてきた轟悠が、その端正さを封印して挑む、その心意気を味わいたい。

文=中本千晶

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放送情報

『シラノ・ド・ベルジュラック』('20年星組・シアター・ドラマシティ・千秋楽)
放送日時:2021年10月10日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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