専科・轟悠が過酷な英雄を演じた、異色の作品「オイディプス王」

轟悠
轟悠

専科公演「オイディプス王」は、宝塚歌劇としては珍しい重厚な対話劇だ。古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人であるソフォクレスの戯曲を、元々ギリシャ悲劇が好きであったという小柳奈穂子が脚色し、演出も担当した。専科公演として上演されたが、月組・宙組のメンバーも出演している。

テーバイの王ライオスは「あなたは子どもに殺され、その子はあなたの妻と交わるだろう」との神託を受けたため、赤子であった息子を山に捨てる。その後ライオス王は盗賊に襲われて死んでしまった。
 
その後、テーバイは怪物スフィンクスに襲われるが、スフィンクスの謎かけを見事に解いて危機を救った若者オイディプスが、人々に請われて王となる。ところが、テーバイは再び災厄に襲われる。オイディプス王は国難を救うべく果敢に立ち向かうが、やがて恐ろしい秘密が明らかになっていく...。

オイディプス王を演じるのが、2021年に退団した専科の轟悠だ。雪組のトップスター時代を経て、2002年に専科に異動。専科時代には、宝塚歌劇としては異色の作品にも多く挑んだが、本作もその一つといえるだろう。過酷な運命に翻弄されながらもなお、与えられた使命に懸命に応えて生きようとするオイディプス王はまさに轟そのもの。誇り高き王が激情に揺り動かされ、最後は運命に殉じていくさまを人間臭く演じてみせる。

王妃イオカステ役を演じるのが、現在上演中の花組公演「エンジェリックライ」「Jubilee」をもって退団する凪七瑠海である。凪七は男役としても多彩な役を演じてきたが、本作の他、「エリザベート」(2009年月組)のエリザベート役、「アウグストゥス」 のクレオパトラ役など、女役にも忘れがたい役がある。男役が演じる女役ならではの凛とした立ち姿が、この物語の悲劇性をいっそう際立たせる。

ベテランが脇を固める手堅い布陣の作品である。預言者テイレシアスを月組組長(当時)の飛鳥裕が、「コリントスの使者」を悠真倫が演じる。専科の中では若手の華形ひかるがオイディプス王の義弟クレオン、沙央くらまが物語の鍵を握る秘密を知る「羊飼い」の役を演じる。また、月組の光月るうが「報せの男」を、憧花ゆりのが巫女を演じ、それぞれ重要なセリフのある役どころで健闘している。

コロス(古代ギリシャ劇における合唱隊)が全編を通じて舞台上に存在し続け、テーバイの民衆たちを演じていく趣向が斬新に見える。彼らを率いる「コロスの長」の役を専科の夏美ようが担う。

時折、歌もあるが、基本的には登場人物たちのセリフが重ねられていくことで物語が進むスタイルである。轟、凪七ら専科の面々が創り上げるギリシャ悲劇の世界をじっくり味わいたい。

文=中本千晶

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放送情報【スカパー!】

オイディプス王(’15年専科回バウ)
放送日時:12月30日(月)16:00~ 
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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