葵の人生を狂わせた16年前の事件の真相、何が真実で何が嘘かが分からない予測不能の展開、登場人物全てが容疑者候補など、謎が謎を呼ぶ"考察"要素がふんだんに盛り込まれたストーリーが魅力の作品なのだが、そんな中で"葵と香坂は互いに似たところが多分にあるキャラクター"というところが他の作品とは一線を画した面白い特徴となっている。
葵は愚直に事件と向き合い、星を挙げてきた一匹狼的な存在で、行動第一の感覚的に頭のきれるタイプ。対する香坂は、論理的な思考を基にした頭のきれるタイプで、常に先読みし、ベストな選択肢を提示し続けるキャラクターで、望野署に異動する前までは警視庁本部に勤務していたエリート。"感覚的"と"論理的"という違いはあるが、共にクールで頭がきれ、互いを信用しておらず自分しか信用していないところ、過去に大きなものを抱えているところなど、多くの要素が類似している。
バディ物といえば、クールとパッション、理性と感性、秀才と天才、規律的と恣意的など相対するキャラクター設定が多用されるものだが、あえて似たところの多い2人がぶつかり合うというのが新しい。過去の事件のこととなると猪突猛進に突っ走ってしまう葵と、葵を暴走させないように監視し続ける香坂。互いに頭のきれる2人が、思考を読み合っているシーンなどは、セリフがないにもかかわらずバチバチとしたやり合いが繰り広げられて目が離せない。例えば、斜向かいに座って互いの存在を意識しつつも、それを悟られないようにし合うシーンでは、あくまで気にしていない素振りを見せつつ、目線の動きだけで心の動きを表現するなど、中村、横山共に高度な演技の応酬で細やかな感情を表現している。共にクールで頭のきれる葵と香坂を、中村と横山がどういう違いをもたせながら演じているかにも注目すると、より同ドラマを楽しめるだろう。
そして何より面白いのが、前半で16年前の事件を追う葵を香坂がけん制するという関係性が、香坂が5年前に望野署に異動するきっかけとなった事件との関連が描かれ始める後半では反転するところだ。まるで写し鏡のように立ち位置や行動性が逆転し、それを経たことでクライマックスに向かって2人の距離感や信頼度が変化していく。この流れにおける、2人の芝居の変わりようにも目が離せない。深まっていく謎によりクレバーさを増していく葵と、冷静さを欠いて人間らしさが顔を出し始める香坂。「葵が追う連続殺人事件の真実」と「香坂が抱える過去」の2つが繋がっていく中で、互いが抱いていた不信感は信頼へと変容していくのだ。このセリフでは描かれない変化にこそ、実力派の役者としての2人の底力が感じられる。
ラストまで誰が犯人なのか分からないハラハラドキドキの展開を楽しみつつ、実力派俳優2人の"競演"によって紡がれる関係性の変化にも注目していただきたい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
約束 ~16年目の真実~
放送日時:2024年12月28日(土)12:10~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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