「のぼうの城」野村萬斎の"バカ殿"成田長親は他力本願のヒーロー 「のぼう様」の底知れないミステリアスさを好演

(C)2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ

成田家の手勢と農民あわせて3000人に対し石田軍は2万人。意外にも苦戦する石田軍は、水攻めで城内を水びたしにし、投降してきた領民も殺害。これを見た長親が、本作の名場面「田楽踊り」にうって出る。一人小舟に乗って、白塗りと白装束で敵も味方も笑わせる芸に興じるところは、狂言師の野村でないとできないユーモアさがある。その度胸に上地扮する石田三成も、長親の狙撃を躊躇するようなしぐさを見せる。

田楽踊りの直前、領民の遺体を見た長親は「俺は悪人になる!」と叫んで覚悟を決めるのだが、「悪人」とはどういう意味なのか?自分が死んでも城内の士気を上げることなのか?領民の犠牲を省みず戦いを続けることか?やはりこの男、腹のそこで何を考えているのか興味がつきない。

千早城の楠木正成、上田城での真田軍の奮戦、桶狭間の戦い...、少数が大軍を打ち破るジャイアントキリングは、それだけでエンタメになり人々を沸かせる。だがそこで敵を翻弄する将は、戦の天才であることがほとんど。戦闘は丹波守利英らに任せ、戦場で武器を振るわない長親は珍しい。自分で開戦を決めたくせに戦わない「他力本願」の総大将。戦の終結も忍城側が敵を追い返した訳ではなく、小田原の北条氏が降伏して戦いを続ける意味がなくなったためだった。胆力と人柄、運の良さも、大将に必要な資質なのかもしれない。

(C)2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ

長親の最後の見せ場は、三成と和平条件を談判するところ。飄々とした振る舞いは変わらないが、領民の生活にかかわることは断固拒否。もはや「のぼう様」と軽率に呼べないオーラが備わってきて、彼の変貌ぶりもみどころだ。

俳優たちはあえて現代風の言葉遣いも混ぜて話していて、長親のたたずまいと共にコミカルな要素も残している。こういった仕掛けのおかげでむごい描写もマイルドに中和されて、泥くさくて活気ある戦国絵巻になった。

狂言師ゆえ、俳優としてもノーブルな役柄を演じることが多かった野村。映画では「陰陽師」の安倍晴明役が印象に残っているが、「のぼうの城」で武将役も様になることを印象付けた。その後も昨年のNHK大河ドラマ「どうする家康」で今川義元を演じるなど、武将としてもカリスマ性を放っている。見ていると、領民と同じ目線で彼の「のぼう様」に惹かれてしまう1作だ。

文=大宮高史

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放送情報【スカパー!】

のぼうの城
放送日時:2024年12月27日(金) 14:00~ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス

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