本作の見どころは、いわゆる本格派の盗賊で、殺しや女を襲うことを許さず、盗賊としての矜持を貫く喜之助の凛とした振る舞いにある。さらに、老いた身でありながらかつて愛した人にうり二つの女性を恋慕う純粋さ。そんな喜之助を演じる橋爪の演技が絶品である。幸四郎は本作において「橋爪さんのお芝居は男の艶っぽさがあり、飄々としながらも存在感がありました。共演させていただけたことに感謝しています」とコメントしている。おとよに向ける愛情の深さ、彼女のために最後の仕事を成し遂げようとする真摯な思いを唯一無二の個性で演じる橋爪の演技は、まさに名優の真骨頂であり、見る者すべてを魅了する抜群の存在感を放っている。
また「でくの十蔵」からつながる喜之助との因縁から、彼に強い想いを抱く粂八も重要な役どころ。そんな心情を巧みに表現した和田の演技も見事だ。本作での喜之助と粂八との絡みは、どのシーンもお互いの盗賊としての想いに胸打たれる名場面に仕上がっている。
「本所・桜屋敷」での登場以来、不思議な巡り合わせのある平蔵と喜之助だが、役目に徹しその足どりを追う平蔵の姿も魅力的だ。演じる幸四郎も一作ごとに平蔵が板についてきた印象で、本作での抑えた芝居も見ごたえ十分である。終盤にかけて、悲劇的な結末を予感させるストーリーだが、共演陣の奮闘もあり、最後までまったく飽きさせない。密偵・おまさ役の中村ゆり、同じく密偵・相模の彦十役の火野正平、筆頭与力の佐嶋忠介役・本宮泰風、同心の木村忠吾役・浅利陽介らレギュラー陣も安定感抜群だ。
本作では佐藤江梨子、朝倉あき、梶原善、金田明夫らも出演。特に喜之助一味に加わる座頭・彦の市役のマキタスポーツが味わい深い演技を見せている。彼の独特なたたずまいは時代劇との相性も良く、今後の活躍が大いに楽しみだ。
最後に、本作は2024年11月に逝去した火野正平の姿が見られることでも貴重な一作となった。相模の彦十を演じる火野は本作でも重要なアクセントとなっていただけに本当に残念だ。本作の終盤では、平蔵と彦十のさりげない場面が挿入されているので、しっかり目に焼きつけておきたい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
鬼平犯科帳 老盗の夢
放送日時: 2月8日(土)13:00~
チャンネル: 時代劇専門チャンネル
※同日19:00、9日(日)1:00にも放送(本編後に鬼平犯科帳アフタートーク「老盗の夢」編も放送)
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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