また、VF開発者の野崎を演じた妻夫木聡も、これまで数々の石井作品に出演してきた。「ぼくたちの家族」(2014年)では、池松と兄弟役で共演もしている。同じく公開時の舞台挨拶で妻夫木は、石井監督＆池松には「ただの仕事仲間というよりも、親族に近いものを感じるところがある」と話していた。そう打ち明け合う3人の晴れやかな笑顔には、信念を携えて、諦めずに映画づくりに挑んでいる"同志"としての強い繋がりが見て取れた。

さらに、三吉彩花は朔也と同居する女性のトラウマを表現。朔也の幼馴染である岸谷役を任された水上恒司は、危なっかしさや軽薄さの裏側に隠した焦りなど、等身大の若者像を作り上げた。そして綾野剛は、野崎が生み出したVF役という難役にトライ。AIが身近となり、生活に欠かせない存在になりつつある今、綾野演じるVFが「自分には心があるのか、ないのか」と自問自答する様子には、ゾワッとするような恐ろしさと切なさがにじんでいる。日本映画界を代表する面々が今、立ち向かうべきテーマとして世に放った渾身作だった。

文＝成田おり枝